もはや「仕組み」で成功する時代ではない──。
僕はそう考えています。
たしかに、同じことを効率的に回し続けるためには、「仕組み」はきわめて有効です。業務をマニュアル化・標準化することによって、誰がやっても同じ結果を出す状況をつくることもできるでしょう。
しかし、そのようなビジネスは、人件費の安い中国やベトナムなどで同じ「仕組み」が生まれれば、太刀打ちすることはできません。「仕組み」が、競争優位を生み出す時代ではなくなったのです。
逆に、そのようなビジネスは危ない。なぜなら、新しい価値をつくり続けなければ、生き残ることができない時代だからです。ところが、「仕組み」によって新しいものを生み出すことは不可能。むしろ、僕は、「仕組み化」できない部分にこそ競争力の源泉があると考えています。
LINE株式会社にはマニュアルはほとんどありません。
会社が現場に求めるのは「どこよりも速く、クオリティの高いものをつくる」ということのみ。プレースタイルは現場に一任しています。いや、マニュアル化できないと言うほうが正しい。クリエイティビティ(創造性)というものは、完全に属人的なものだからです。
当たり前のことです。たとえば、作曲方法をマニュアル化できるでしょうか? できるはずがありません。もしも、できるならば、誰でもベートーベンやモーツァルトになることができます。古今東西、あらゆる作曲家はそれぞれ自分のやり方で曲をつくってきたはずなのです。
それと同じで、ヒット商品を生み出す方法は十人十色。マニュアルにすることは不可能です。新商品の着想を得ると、すぐにプロトタイプをつくったほうが発想を広げられる社員もいれば、まずは企画書のかたちでコンセプトを明確に言語化することから始めたほうがやりやすい社員もいる。そのプロセスをヘタにマニュアル化しても、彼らの創造性を縛りつけることになるだけです。
チームも同じです。
LINE株式会社ではチームごとにやり方はまったく異なります。
企画担当者が主導してコンセプトをまとめあげ、それに基づいてデザイナーとエンジニアが具体化していくチームもあれば、デザイナーとエンジニアがプロダクトをつくるのを、企画担当者がサポートするチームもあります。それは、集まったメンバーの個性や特性にあわせて自然と生み出されるコンビネーションであり、いわばエコシステムなのです。
それを何らかの「型」に押し込めようとしても、チームの創造性が失われるだけ。経営が「仕組み化」などと称して、余計なことをしないほうがいい。現場は、どんなやり方でもいいから、「いいもの」さえつくってくれればいいのです。
では、このエコシステムはどうすれば生み出すことができるのか?
方法はひとつです。結果を出す人がやりやすい環境を大事にすることです。彼らに組織のやり方を強要するのではなく、組織が彼らのやり方に合わせる。チームによってやり方が違うことも許容する。それしか、ありません。
そして、これが会社に決定的な競争力を与えてくれます。
なぜなら、エコシステムは、「仕組み」のように第三者がコピーすることができないものだからです。だからこそ、僕は「仕組み化」できない部分に競争力の源泉があると考えているのです。(『シンプルに考える』森川亮・著より)