手の込んだ料理を少量ずつ、数多く味わってほしい
酒呑みの亭主だからわかるその楽しさ

 この日は2500円のおまかせコースをオーダーした。まず、一皿目には鮪の漬けとポテトサラダ、魚と野菜の組み合わせだ。ポテトサラダにはシャキシャキの玉ねぎ入っていてその甘みとソースが格別に合う。続く二皿目は茶巾仕立ての卯の花、つる紫酢味噌、ゴーヤの胡麻和えとくる。

(写真左)鮪の漬けとポテトサラダ。(写真右)茶巾絞りで絞った卯の花、酢味噌に浸したつる紫菜、胡麻和えのゴーヤ。出される料理すべてに手がかかっている。少量ずつなのは、多くの品数を味わってもらいたいとの配慮から。

 酒は厳選したものが5銘柄を用意されており、この前菜に箸を伸ばしていると、すぐに2合は空になる。これらの前菜や副菜に加えて、ひやかけなどの創作蕎麦と締めにせいろが付く。最後には手作りデザートまで運ばれてくる。満腹感と充足感が同時に押し寄せてくる十分な内容だ。

(写真左)蕎麦豆腐。綺麗な白色が目も楽しませてくれる。(写真右)鶏肉と胡瓜の梅肉の和え物。酒のあてに合うものが次々に出てきて飽きることがない。

「お酒のあては少しずつ、数があったほうが楽しい。それは自分がそうだから」と、鈴木さんは今でも仕事が終わった後は毎日のように呑み、あれやこれやと肴を工夫する。

(写真左)蕎麦掻きは粗挽きの粉がびっしりと表面を覆う。食感もよく、蕎麦の匂いが香り立つ。(写真右)箸休めの沢庵のマスカルポーネチーズ和え。塩みのある沢庵に甘みの強いチーズと組み合わせて、絶妙なバランスの味加減を出している。

 出される蕎麦はすべて手挽きだ。開店以来、一貫して手で臼を回してきた。平日の木曜、金曜は定休なのだが、土・日に多く訪問する客のためには、金曜はほぼ1日、手挽き作業に追われる。