山形のそば街道に影響を受け、自宅を改装して開業
手挽き蕎麦とクオリティの高い料理を安く楽しめる店に

 その人気店「すゞ木」を興した鈴木教容さんは、35歳の時にガソリンスタンド経営をあっさりやめて、蕎麦屋の道を歩こうと考えた。

「妻の実家の山形では自宅を改造し、酒を飲ませて蕎麦を食べさせる、そんな蕎麦屋が多くあります。それに、僕は蕎麦屋酒が好きで仕方がなかったから、もし次の商売を選ぶとすれば蕎麦屋だと考えていたんです」(鈴木さん)。

若い頃から蕎麦屋酒が大好きだという亭主の鈴木教容さん。女将の実家がある山形の”そば街道”をお手本に、大人が憩える店を興した。

 山形には“そば街道”と呼ばれる場所がいくつかあり、そこには安くて美味い蕎麦屋が軒を連ねている。なかには民家のつくりのままの店もあり、そんな蕎麦屋をお手本にしたようだ。

 鈴木さんは父親が所有していたマンションのガレージを改造して蕎麦屋を始めた。

 自宅なら家賃がかからないから、その分、クオリィティの高い蕎麦や料理を提供できる。酒を1、2本傾けて、蕎麦料理を楽しんでもらう。マイペースで商いをして、客とも長く付き合いたい――。

 自分が蕎麦屋通いをしていた頃から思い描いていた店を現実のものにした鈴木さんは、1997年の開店から14年間、全くその考え方を変えてはいない。開店当時から変えていないというメニュー構成も、変わらぬ鈴木さんの思いを表している。

 場所柄、通りすがりにふらっと入ってくる客は余りいないが、一度やってきた客のほとんどがリピーターになってしまう。そして、彼らの口コミがまた新しい客を運んできた。その客の9割が注文するというコース料理は驚くほどコストパフォーマンスが高い。

 蕎麦三昧のコースでは、前菜、蕎麦豆腐、蕎麦がき、蕎麦二色、デザートで1500円。これでは徳利の1本や2本は付けたくなるというものだ。おまかせコースはさらに贅沢な蕎麦懐石コースだが、これは2500円。1時間余はたっぷりと楽しめるものになっている。