玄蕎麦1、丸抜き2をブレンドして打つ蕎麦は
ふくよかな香り、ややざらつく舌触りがたまらない

「辛いなんて思ったことはないです。好きなんでしょうね、蕎麦が」と、語る鈴木さんは蕎麦の修業に、高尾山の参堂のお土産蕎麦屋に入ったことがある。

「1日1000食は出るから、自分は2、3キロの蕎麦玉※1を23回打った。さすがに腱鞘炎になりました」(鈴木さん)。

玄蕎麦の粉1、丸抜き蕎麦の粉2の比率でブレンドして打つ。せいろの上に乗った蕎麦は、豊かな香りと独特のざらついた食感が楽しい。

 たいしたことではないと言わんばかりに鈴木さんは飄々と話すが、普通の職人なら2、3日で逃げ出すだろう。今はその修業の成果が、せいろの上に華やぐような蕎麦の姿形となって表現されている。

「すゞ木」の蕎麦は、殻付きの玄蕎麦の細かめの粉と殻を剥いた丸抜きの粗めの粉を一対二にブレンドして打つ。

 玄蕎麦の香りが丸抜きのややざらついた麺体と一体になって、ふくよかな匂いを運ぶ。食感も舌を柔らかにタッチするようで快い。

料理の合間に出される野菜蕎麦。トマト、茄子、カボチャ、万願寺唐辛子など、旨みがいっぱいのひやかけ。

 これがひやかけや熱汁ともなると、蕎麦によく絡んで出汁の甘みを口中に運んでくれる。この日のコースの野菜蕎麦は、野菜の甘み、酸味、僅かな苦味が渾然一体となって旨みに昇華していた。

 東京郊外の住宅地に、東北の蕎麦街道からの想いにしばし心を寄せる。
そのコース料理と蕎麦前を供に味わう人を誰にするか、それをしばらく迷ってみよう。

※1 蕎麦玉:蕎麦粉をこねて丸くまとめたものを蕎麦玉という。2、3キロ玉は粉の重さが2、3キロだが、まとめ用の水が通常、粉の半量入るから実際には約3、4キロほどになる。これが23人前程度になるから、×23回だと529人前。そこそこの店の10日分だ。手首や腰を痛めるのが普通かもしれない。

「そば切り すゞ木」
●営業案内
・住所:東京都練馬区南大泉4-43-32
・電話:03-5387-2010
・営業時間 11:30~14:00 17:00~19:00 (売り切れ仕舞い) 定休日・木、金 ※訪問はなるべく予約で、夕方は人数などで閉店時間の延長も相談可能。
●予算:2000~4000円
●駐車場:2台
●HP
:なし
●おすすめ:せいろはもちろんだが、予約で粗挽き(共に1000円)も味わいたい。種物では鴨じるきざみせいろ(1200円)、季節野菜と掻揚げの天せいろ(1300円)が人気。昼は1500円の蕎麦三昧で満足できる。
●酒・料理:酒好き亭主の厳選酒は黒帯、東北泉など5銘柄、まずは厨房にお勧め酒を。接待や会食には2500円のお任せで十分に堪能できる。単品では砂肝煮(500円)、季節野菜の天ぷら(1品・200円)、当日の酒のあて(500円)がある。
●訪問:お昼は蕎麦売り切れの場合が多いので電話を。夜は時間指定で18時くらいからの訪問も可。4人程度の食事会や接待に向いている。また、休日の記念日にも使いたい店。        
●地図こちら

 

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