大きな成功体験を積むと、誰しもがそうした体験を引きずってしまいがちですが、森川さんは成功体験を捨てることこそが重要と考えています。事業環境の変化によってそれまでの強みが弱みに転化する状況をどう乗り越えるか、またそのための組織風土の多様性について、お話を伺いました。聞き手は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアン共同代表の、朝倉祐介さん、村上誠典さん、小林賢治さんです。(ライター:石村研二)

次の価値を狙うために、成功体験を捨て去り続ける

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):ご著書の『シンプルに考える』では、強みを捨てるということに言及されていますよね。今のC CHANNELでも、これまでの成功体験を捨て去るということをしてらっしゃると思うんですが、何を捨てるかという点において意識されていることはありますか?

「成功体験」を捨てられない会社は衰退する【森川亮さんに聞く Vol.3】森川亮(もりかわ あきら) C CHANNEL株式会社 代表取締役社長。神奈川県出身。1989年筑波大学卒業。日本テレビ、ソニーを経て2003年ハンゲームジャパン(後のNHN Japan。現LINE)に入社し07年には代表取役社長に就任。2015年3月、同社代表取締役社長を退任し、C CHANNEL株式会社を設立。

森川亮氏(C CHANNEL株式会社代表取締役社長。以下、森川):今の価値がいつまで続いて、その次の価値がどのようになるのかという部分は常に意識しています。今、価値があっても、半年後とか一年後に無くなるなら今のうちから次の価値を狙いに行こうということです。

朝倉:C Channelもリリースされた当初から、内容が変わってきている印象がありますが、何回転ぐらいしましたか?

森川:3回転くらいですかね。最初は、インフルエンサーの女性たちが動画を投稿するブログ的な感じでスタートしました。その時の課題は動画を投稿することの敷居が高かったのと、投稿する人たちのセレクションができてなくて有象無象になってしまったことでした。それで、投稿する人を一気に絞り込んで、自社の制作体制も整えて、自社以外の分散型メディアにも展開をして、それで急成長したんです。次のステージは、人にフォーカスすることですかね。最終的にファンが付くのは人なので、スターみたいな人を生み出したいなと。動画の投稿も一般的になってきたので、いろいろな人が出てきました。最近だと卵料理の専門家みたいな人だったり、GUやユニクロを組み合わせてプチプラのコーデをするスペシャリストだったり、そういう人にファンが付いています。プチプラの子なんかは最近新しい服のブランドを作って、それが結構売れたりして。

小林賢治(シニフィアン共同代表。以下、小林):LINE時代に僕が横から見ていて羨ましかったのは、韓国語の人と日本語の人が縦横無尽に会話してるようなグローバルな感じでした。日本では珍しいですよね。成長や次の価値のために、ダイバーシティを意識してらっしゃったんですか?

森川:あえてやったことは、もともとバラバラなものをまとめようとしないことですね。バラバラな人たちの意思をまとめようとするのではなくて、楽しいものだけ拾い上げて、それを特別扱いするってことをしていました。その代わり、選ばれなかった人はどんどん辞めていくので回転が速くて、それが多様性に繋がったのかもしれません。

小林:それで変化を生んだんですね。多くの日本企業では、このやり方でハマるってときは波に乗るのに、新しいことをやろうとするとオタオタしてしまいますよね。でも、ダイバーシティがあると変化への対応が速い。

森川:難しいところですね。日本企業の課題はそういうところにあるとは思いますけど、本当は両方あるといいんですよね。会社で、文化を統一するという話があると思うんですけど、僕はそれには否定的です。統一してしまうとダイバーシティが失われてしまうので、むしろバラバラのほうがいいのではないかと思っています。

 M&Aのときでも、会社がM&A後も活発であるために、そこの社員ともともとの社員の距離感をどう保つかは意識しました。会社ごとにカルチャーもヒストリーも違うので、現場レベルでは仲が悪いみたいなのはありましたけど、一緒になってしまうとお互いの価値が分散してしまいます。お互い尖ったままの方が、その点と点がいつか線でつながると思うんです。

朝倉:文化は統一しないよう心がけるにしても、オフィスの統合等も含めて、現場レベルではある程度一緒にしてしまうんですか?それとも、そこもなるべく分離したままいくんですか?

森川:基本はいい状態であれば混ぜないですね。でも悪くなったときは、一緒にするとかやめるとかして潰してしまいます。つまり、存在意義があるかどうか。ビジネスが重要であり、お客さんのニーズが重要であって、それに合うカルチャーであるかどうかがです。組織間のカルチャーが合わないのであればそれを無理に押し付けることはありません。