四半期末である9月28日にニューヨークの最大手マネーブローカーであるICAP社でフェデラルファンド市場(銀行間の短期の資金貸借市場)の様子を見学した。
オーバーナイト取引(期間1日)では、朝方に欧州系銀行がドル資金を確保しようと取り上がり、5.25%前後で大量の取引が成立していた。FRBが掲げる誘導目標は4.75%なので、0.5%高い水準だ。欧州勢のドル資金調達必要量はサブプライム関連の影響で増えている。一方、米系大手行の資金繰りに問題は生じていない。このため、米系大手行は午前中はあわてずに、夕方に金利が低下してから調達すればよいというスタンスでいた。
実際、欧州時間が夜となる午後は、欧州系金融機関の大半がフェデラルファンド取引を終えて市場からいなくなる。すると夕方にレートは1.00%まで急落した。この日全体の取引平均レートは4.58%。結局、FRBの誘導目標を下回ったことになる。全体として見れば、9月末のフェデラルファンド市場は、さほど荒れなかったといえよう。
1ヵ月や3ヵ月などのターム物取引でも欧州系金融機関は高い調達希望レートを提示している。ターム物取引の流動性は8月以降、非常に薄い状態が続いていた。しかし、ここ最近、限定的な動きではあるものの、高い利回りを求める運用資金が市場に姿を見せるようになってきた。高騰していたターム物金利のプレミアムも9月上旬に比べれば低下を見せている。
短期金融市場が9月末を乗り越えたことで、市場における不安感は一服気味である。銀行の決算情報も株式市場で好感されている。今後は、米住宅価格がどこまで下がり、それが米実体経済にどの程度の悪影響を及ぼすのかが議論の焦点となってくるだろう。
悲観的な話も多く聞かれるが、一方で、米株価の上昇は、株式を多く保有している高所得者層を中心にプラスの資産効果をもたらしている。また、米国在住の知人によれば、FRBの利下げで低利の住宅ローンへリファイナンスが可能となり、月々の支払額が500ドル減ったそうだ。そのぶん、他の消費へ回すという。優良な借り手に対しては、米金融機関は積極的な営業を始めている。
須田美矢子・日本銀行審議委員は9月27日の講演で、米経済は住宅市場の低迷によって「もっと下振れする可能性が高いと見ていますが、世界経済へかなり影響が出るほどの大幅な下振れにはならないと考えています」と述べた。今後、同様の見方が増えてくるのではないかと予想している。
(東短リサーチ取締役 加藤 出)
※週刊ダイヤモンド2007年10月13日号掲載分