ザッパラス、enishを経営者として率い、東証一部上場企業にまで成長させた杉山全功さん。「上場請負人」として知られる杉山さんですが、ご自身のことを「1から90」に会社を成長させる経営者と捉えているそうです。スタートアップに恵まれた時代だからこそ大事になってくる、「やらないことの決め方」や「採るべき人材の基準」について伺っていきます。聞き手は、株式公開後も精力的に発展を目指す“ポストIPO・スタートアップ”を応援するシニフィアン共同代表の、朝倉祐介さん、村上誠典さんです。(ライター:石村研二)

会社の経営は3勝2敗で構わない

朝倉祐介(シニフィアン共同代表。以下、朝倉):杉山さんがリョーマ(1987年に現KLab社長の真田哲弥氏らが立ち上げたベンチャー企業)やダイヤルキューネットワークに携わっていらした頃から、だいぶスタートアップの世界も変わりましたよね。今の起業家に対して、こういうことに気をつけておいたほうがよいと思われることってありますか?

自分より優秀な人材を採用できないと経営者は失格【杉山全功さんに聞く Vol.3】杉山全功(すぎやま まさのり)大学時代に学生ベンチャー、株式会社リョーマに参画したことが経営者へのきっかけとなる。2004年に代表取締役に就任した株式会社ザッパラスは就任2年目で東証マザーズに上場し、2010年には東証一部上場へと導く。同社退任後、2011年に株式会社enishの代表取締役に就任。就任後2年半で自身二度目となる東証一部への上場を果たす。株式会社enish退任後は、株式会社日活、地盤ネットHD株式会社等の社外取締役を務めるかたわら、最近はエンジェルとして若手経営者の育成にも力を入れている。

杉山全功氏(以下、杉山):スタートアップ業界は、今いい時代だと思うんです。僕たちの頃は起業というのはドロップアウトした人がやるものだった(笑)。そもそも「起業」なんて言葉自体がなかったんですよ。お金を調達するにしても個人保証をつけて借入していたんですからね。今だと借入金ではなくて直接金融で資金調達ができるし、起業するには良い環境だと思うので、その気がある人はどんどんやったほうがいいと思います。

 ただ、調達した資金はもらったお金ではない、ということはわかってほしいですね。たしかに、投資してもらったお金というのは、失敗してなくなったら返さなくていいお金といえばそれまでかも知れませんが、経営者としてはあくまで預かってるお金だというベースを持ったうえで走って欲しい。それは上場してからもそうで、自分のお金ではなく人様からお金を預かっているという感覚を常に持つ、ということは気をつけてほしいですね。

朝倉:事業の経営という面ではどうでしょうか? スタートアップの段階の経営者だからこそ、気をつけるべきことはありますか?

杉山:僕がよく言うのは「3勝2敗でいい」ということです。目指すところは最後の優勝なので、全部勝とうとする必要はなくて、勝ち越しを続けていけばいいんです。全部うまくいかせる必要はなくて、うまくいかないものは捨てる、やめるというのが経営の要諦だと思っています。スタートアップは、能力がある人がトップにいることが多い。能力があるトップというのは「あれもやりたい、これもやりたい」って思ってしまうものですが、人もお金もあまりないので全部はできないわけですよ。その時に、「やらないことを決める」というのが経営者として大事なことですし、やめると決められるのは経営者だけなんです。難しいんですけど、そこそこ上手くいってる事業であっても全体を見たらやめたほうがいいなというものを思い切ってやめるとか、それができる経営者にならないといけないと思います。

自分より優秀な人材を採用できないと経営者は失格【杉山全功さんに聞く Vol.3】

朝倉:勝ち抜き戦ではないんですもんね。「2敗してもいい」と考えると、当たったら大きいかもしれないけど、どうなるかわからないリスクの高いことにチャレンジできるようにもなりますね。

杉山:そう。ポートフォリオの構築が大事なんですね。ポートフォリオを構築すれば、ここぞというときは攻め、引くべきときは引くというメリハリが付けられますよね。経営者にとって大事なのは「いつ攻めていつ引くか」という判断を、一歩引いて全体を俯瞰してやることです。野球の監督が目の前の試合に勝つために明日の先発投手までつぎ込んでしまったら、ローテーションがガタガタになってしまうのと同じように、ここは攻めるべきではないという判断ができることが大事なんですね。

 ただ現場は違いますよ(笑)。現場は、明日があると思ってはいけない。ここでダメだったら2軍に落とされる、と思ってやらないと。経営者はその現場の力をうまく引き出して3勝2敗に持っていけば、確実に前に進めるんです。