東京都は、緊急車両が通行する幹線道路沿いの耐震が義務化されるのに伴い、耐震化工事の助成に前年比5倍となる150億円を充てる来年度予算案を公表した。
ただ、助成の中心は商業ビルで、東京都内に43万5842戸ある旧耐震(1981年以前着工の古い耐震基準。東京カンテイ調べ)マンションの大半は対象外である。そこで都は、旧耐震マンションに対して、“外圧”を利用した、二つの耐震化促進策を検討していた。
一つは、建物が耐震基準を満たしているかを外観でわかるようにする「耐震表示の義務化」だ。
これは防火基準を満たしたことを表示する「適マーク」の耐震版で、今秋の導入が画策されていた。
もう一つは、都による「耐震状況のデータベース化」だ。「耐震性能を役所に知られること自体がプレッシャーになる」(中山登志朗・東京カンテイ上席主任研究員)うえ、「消費者がデータに自由にアクセスできれば、旧耐震物件の人気は落ちる可能性が高い」(仲介会社)。つまり市場原理で旧耐震物件を淘汰しようという思惑だ。
しかし、耐震表示の義務化については、「表示方法の検討などに時間がかかっている」(東京都都市整備局)ように、雲行きが怪しくなってきた。「外観から旧耐震とわかると資産価値に影響、財産権の侵害の恐れがあり扱いが難しいのだろう」(中山氏)と専門家は分析する。
また、耐震状況のデータベース化では、「収集したデータは個人情報に類するので“公表”できない」(都市整備局)ため、外圧としての効果は半減する。
外圧によるマンションの耐震化の促進は難しく、既存住人の手に委ねられそうだ。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木 豪)