今月10日に販売活動が始まる1棟のマンションに不動産業界が関心と期待を寄せている。
話題の物件は野村不動産が東京都江東区東雲に建てる「プラウドタワー東雲キャナルコート」。
総戸数600戸という東京23区内で久びさに登場した大規模物件であることに加え、業界関係者が注目するのは同物件の立地と高層(タワー)という点だ。
この物件の建設が予定されている東雲は、東京湾に近接した、いわゆる「湾岸」「ベイエリア」と称される埋立地である。建物の高さは52階建てと、まれに見る超高層物件だ。
ここ数年、売れ行きがいいこと、大規模物件が建てやすいことで、湾岸やタワー物件はマンション業者のドル箱だった。そのため業者も競って湾岸の用地取得に励んでいたが、東日本大震災を契機にそれらが塩漬けとなる可能性が懸念されていた。
湾岸の人気地区の一つだった千葉県浦安市で広範囲で液状化が発生したり、停電でエレベーターなどが停止したりしたことが知れ渡り、「湾岸地区は地震に弱い」「タワーマンションは揺れや停電に弱い」というイメージを抱く消費者が増えてしまったのだ。
実際、震災以降はマンションディベロッパー各社の湾岸やタワー物件の新規計画は凍結状態に陥った。プラウドタワー東雲も発売直前に震災が起きたために発売が延期された物件だ。震災後に売れていたのは、内陸部や低層物件が中心だった。
野村不は震災後、プラウドタワー東雲の建物内の防災拠点を1ヵ所から9ヵ所に増設した。非常用電源も24時間稼働を可能にするなど防災機能を強化して、消費者の不安払拭に努めたことで販売に踏み切った。財閥系大手と違い、内部留保が少なく、オフィスビル事業による現金収入が乏しいため、用地を塩漬けにする戦略が採れないという事情もある。
今銀行のダンピング競争による年利0.7%前後の低金利も後押しして、「ここへきて業者も消費者も(マンション購入の)マインドは上向きつつある。秋商戦は盛り上がる可能性がある」(住宅評論家の櫻井幸雄氏)。
湾岸やタワーの物件が震災以前のような売れ行きを示すか、不透明感が漂うなか、「プラウドタワー東雲は湾岸地区やタワー物件の今後を占う重要な指標となる」(中山登志朗・東京カンテイ上席主任研究員)。
震災以前と変わらない価格で売れるようなら、他社も次々と湾岸やタワー物件の開発・販売を再開すると見られている。
逆に不人気となれば、当分は湾岸やタワー物件の開発は停滞せざるをえない。そのため、「プラウドタワー東雲にがんばってほしい」という声援がライバル社からも上がっている。
(「週刊ダイヤモンド」編集部 鈴木 豪)