当時の社内開発者は家庭用での展開を提案した。消費者にヒアリングすると、鼻から顎にかけて盛り上がった形状が「カラスてんぐみたい」と酷評され、すぐにゴーサインは出なかった。

 しかし、開発者は電車内で医療者用のマスクを着けた通勤客に遭遇した。症状を軽減したい花粉症患者だった。医師からも花粉症患者向けの商品化を要請され、背中を押された。機能性に対するニーズを見込んで開発が始まった。

 課題は見た目の改善で、1000通りを一枚一枚試作した。そして分かったのは、これまでの形状に勝るものなしということ。遮断性、フィット性が高く、ほとんど変えようがなかった。

 03年、そのままの形状で家庭向け「超立体マスク」が発売された。花粉症患者がリピーターとなり、カラスてんぐのような形状は徐々に見慣れたものになっていった。

 そして09年のパンデミック騒動のさなか、増産態勢の構築と並行し、超立体マスクに続く、新しいマスクの開発プロジェクトが立ち上がった。そのテーマは、プリーツタイプの開発だった。

 超立体形状については同社が特許を取得しているため、他社はひだによって立体感を出すプリーツタイプで攻めていた。

マスク着用が日常化し
見た目も無視できない

 超立体形状こそ最も高機能という自負を持ち、扇形で頬とマスクの間に隙間ができやすいプリーツタイプの機能性を否定してきただけに、今更手を出すことに逡巡はあった。それはまるで自己否定であり、カニバリを起こして超立体マスクをつぶすリスクもあった。

 パンデミック騒動を経て、花粉症患者も増える中で、日常的にマスクを着ける人は増えた。すると、着け心地や見た目への関心が一層高まる。見た目ではプリーツタイプの方が受け入れられやすい。そこに高い機能性を持たせた商品の潜在需要から、ますます目を背けるわけにはいかなかった。