パンデミック騒動後、マスク開発部署は世間からも社内からも忘れ去られたかのように静まり返り、よくも悪くも開発に集中できる環境だった。柴田たちは超立体形状一筋から転じ、プリーツタイプを作る設備の開発を一から始めた。

 超立体マスクのブレークスルーは、見た目よりも機能を優先する覚悟を決めた瞬間にあった。第二のブレークスルーは、11年発売の「超快適マスク」で見た目と機能を両立させたこと。超立体形状の設計思想を生かしたプリーツタイプを生み出したのである。

 ベビー用紙おむつに使う独自の伸縮素材を採用することで長時間着用しても耳の痛みを少なくし、頬回りの隙間をつくらない。耳掛け部にゴムを使う他社のプリーツタイプに対し、痛み、隙間の両面で差別化した。かつ、超立体マスクと同レベルで飛沫をカットするフィルタを搭載。本物シルク配合で着け心地が良く、通気性も高い。

 材料にコストを掛ける分、複雑な製造工程を全て機械化し、生産を効率化した。例えば、耳掛け部にゴムを使った他社品では、最後の包装工程でゴムを人の手でマスクの中央に載せるのが一般的。超快適マスクは耳掛け部が内側に畳まれているのでそこでの人手は不要。マスク最大手故、大量生産技術は開発の肝だった。

 マスクでは8年ぶりとなる新ブランドは、今や市場でシェアトップに上り詰めている。

 では、超立体マスクは役目を終えたのか。そうはならない。超立体マスクの防御力に勝るものはなく、中国では国家基準をクリアした大気汚染対策用を17年3月に販売開始。柴田らは国内向けも改良し、8月に発売した。

 柴田のマスク観察は電車内に限らない。社内では予防で健康を管理する文化が浸透し、マスク着用率が高い。意外なマスク、気になる着け方をしている社員を見るたびに、「なぜ」と問う。

「アトピーだから、やっぱりガーゼ」「見た目が気になるからプリーツを広げたくない」。そうした声が「次の宿題になる」と柴田。発売から6年を経た超快適マスクの新タイプも開発中。探究が終わることはない。(敬称略)

(「週刊ダイヤモンド」編集部 臼井真粧美)

【開発メモ】超立体マスク

 マスクの着け心地で重要なのが耳掛け部。長時間着用すると、耳の付け根の上部分が痛くなりやすいものだ。超立体、超快適はブランドの垣根なく、耳掛け部を改善して進化させている。2017年8月に発売した改良版「超立体マスク かぜ・花粉用」は渾身の新形状。手作りによる試作数は数百枚に上った。通気性を高めた「息ラク感アップフィルタ」も搭載。