「重要だが緊急ではない」ことに取り組め

「あのな、全ての仕事は『重要』か『重要でない』かに分けられるやろ?ほんで、一方で『緊急』か『緊急でない』かにも分けられる」

立三さんは、バーバーチェアから身を乗り出して、目の前の鏡に指で四角形を描きながら説明を始めた。

「それで、こうやって『重要度』と『緊急性』でABCDの4つのマスが作れる。こういうふうに対立する軸を2つ組み合わせて図表を作って考えるスキルを〈マトリクス思考〉って言うんや」

学びは最高の自己投資。ちゃんと自分に返ってくる

 

 

 

 

 

 

 

・A 重要で緊急

・B 重要だが緊急ではない

・C 重要ではないが緊急

・D 重要でもないし緊急でもない

「Aは言うまでもなく最優先の課題だが、多くの人はCやDに時間と労力をかけ、Bを後回しにしてしまう。でも、長い目で見た時に、本当に大切なのはBの領域や。日ごろからここに取り組んでいると、ボクシングのボディブローのようにあとからジワジワと効いてくる。後々、人生に大きな影響を与えることになる

立三さんは、理容業界を例にして説明してくれた。

Aは、「サービス品質の維持」。日々の顧客満足度の維持が、短期的にも長期的にも大切である。今日をないがしろにして未来の成果はない。

Bは、理容学校との関係構築。今日、明日に問題が起こるわけではないが、関係を築いておけば、人材難の理容業界では長期的に非常に大きな力になる。

Cは、理容とは直接関係ない内容の飛び込み営業への対応に時間を取られること。生命保険の営業マンへの応対がいい例で、彼らは緊急の対応を迫るが、重要なことはほとんどない。

Dの典型例は、「蒸しタオル」の少し安い納入業者。理容室にとって、現在の蒸しタオルの金額は大きな損失でもなく、来月対応しても、再来月対応しても変わらない。

立三さん曰く、見逃されがちなB「重要だが緊急ではない」の代表選手が「教育」だそうだ。

個人で考えると「教育」は「能力開発」だが、会社の経営で考えると「研究開発」であり「先行投資」である。

例えば、自動車メーカーは、電気自動車が話題になるずっと以前から「研究開発」に取り込む「先行投資」を行ってきたはずである。

何事も一夜では起こらないのだ。

そう説明してもらうと、よく理解できた。

【マトリクス思考】
例えば、「重要」「重要でない」、「緊急」「緊急でない」などの対立する軸を2つ組み合わせて図表を作り、思考するスキル。

(つづく)

●著者:さかはらあつし
作家、映画監督、経営コンサルタント 1966年、京都生まれ。京都大学経済学部卒業。(株)電通を経て渡米し、カリフォルニア大学バークレー校にて経営大学院にて修士号(MBA)取得。シリコンバレーで音声認識技術を用いた言語能力試験などを行うベンチャー企業に参加。大学院在学中にアソシエートプロデューサーとして参加した短編映画『おはぎ』が、2001年カンヌ国際映画祭短編部門でパルムドール(最高賞)受賞。帰国後、経営コンサルティング会社を経て、(株)Good Peopleを設立。キャラクターの世界観構築など、経営学や経済学だけでなく、物語生成の理論、創造技法や学習技法を駆使した経営支援、経営者教育を手がけている。著書は、『プロアクティブ学習革命』(イースト・プレス)、『次世代へ送る〈絵解き〉社会原理序説』(dZERO)ほか。映画は、初監督作品の長編ドキュメンタリー『AGANAI』の公開に向けて奮闘中。京都在住。