映画館の〈ナマモノ〉は「時間」
「じゃあな、〈ナマモノ問題〉に当てはまる他の商売を考えてみ?」
「豆腐店ですか?」
「どうして?」
「腐るから」
「他には?」
「青果店は?」
「どうして?」
「腐るから」
「君、食べもんばっかりやな」
「だって腐るものじゃないですか?」
「じゃあ、旅行代理店の飛行機の格安チケットはどうや?」
「あ、昨日の座席は今日売れない……ですね」
「映画館は?」
「昨日の座席は、今日売れません。でも……」
「旅行代理店の格安チケットと映画館の座席とは、何か違うやろ?」
「はい」
「なんや?」
「映画館は、座席は仕入れていません。仕入れてるのは映画です」
「そやな。せやから、〈ナマモノ問題〉をベースにして考えたら、映画館は上映している間の座席を使える『時間』、理容室はバーバーチェアの使える『時間』がナマモノや。わかるか?」
「はい、なんとなく……」
「ま、ここまでわかってたら、もうええ。十分や」
「え、そうなんですか?」
「十分、十分。日本人は最後の最後までわからないとダメという教育をされてるから、アカンと思うんやけどな、根本はこれだけや。これに統計とかいろんなこと使って詳しい説明もできるけど、まあ、最初はこんなんで十分なんや。完璧に理解しようとしたら大変。勉強は、教えてもらったことを手がかりに自分で考えるんやで。1つ、2つ、自分の頭で考えられるようになったら、大儲けや思ったらええ」
立三さんの説明を聞いていると、自分の頭がよくなる気がする。