鮮魚店は、理容室の3倍の客が必要

●理容室の場合

・固定費用(月額)
家賃60万円、家族4人の生活費50万円、見習いの人件費1人20万円、光熱費+通信費10万円とすると、合計は60万円+50万円+20万円+10万円=140万円。

・可変費用(お客さん1人あたり)
蒸しタオル+シャンプー+シェービングクリームで200円。

・粗利/粗利率
粗利は、客単価(調髪料金)4500円―商品原価(可変費用)200円=4300円。粗利率は、4300円÷4500円=95.6%

・損益分岐点
140万円÷4300円=326。月に326人のお客さんが入れば、大まかな計算ではなんとかサバイバルできる。つまり、損益が分岐する。

●鮮魚店の場合

・固定費用(月額)
家賃60万円、家族4人の生活費(=人件費。見習いはいない)50万円、光熱費(電気代や水道代が理容室よりかかる)+通信費20万円とすると、合計は60万円+50万円+20万円=130万円。

・粗利
魚の原価率70%、粗利率30%、客単価(1人あたりの平均購入金額)を4500円とすると、粗利は、4500円×30%=1人1350円。

・損益分岐点
130万円÷1350円=963。月に平均購入金額4500円のお客さんが963人いると元がとれる。つまり、損益が分岐する。

「かなりザックリした計算やけど、家族4人が食べていくのに、同じ客単価なら、1ヵ月に、理容室は326人のお客さんが必要で、鮮魚店なら963人。つまり、鮮魚店は、理容室の約3倍のお客さんが必要になるんや」

「全然違いますね」

「そうや。数字で見ても、ビジネスの構造が全然違うんや。これで、家族経営の理容室が、お客さんが少なくてもやっていけるのがわかるやろ?」

「はい」

今までなんとなく理解していたが、こう説明してもらうとスッキリした。

(つづく)

●著者:さかはらあつし
作家、映画監督、経営コンサルタント 1966年、京都生まれ。京都大学経済学部卒業。(株)電通を経て渡米し、カリフォルニア大学バークレー校にて経営大学院にて修士号(MBA)取得。シリコンバレーで音声認識技術を用いた言語能力試験などを行うベンチャー企業に参加。大学院在学中にアソシエートプロデューサーとして参加した短編映画『おはぎ』が、2001年カンヌ国際映画祭短編部門でパルムドール(最高賞)受賞。帰国後、経営コンサルティング会社を経て、(株)Good Peopleを設立。キャラクターの世界観構築など、経営学や経済学だけでなく、物語生成の理論、創造技法や学習技法を駆使した経営支援、経営者教育を手がけている。著書は、『プロアクティブ学習革命』(イースト・プレス)、『次世代へ送る〈絵解き〉社会原理序説』(dZERO)ほか。映画は、初監督作品の長編ドキュメンタリー『AGANAI』の公開に向けて奮闘中。京都在住。