10分1000円の理容室との違い

「この店の調髪料金は税別4500円やろ?」

「そうです」

「1人10分1000円の店がたくさんある時代に、ええ値段やな」

オレは、「ザンギリ」と低料金の店の違いを正直に説明した。

・決して10分1000円の理容室の理容師に技術がないわけではない。

・ただし、10分という時間制約の中で髪を切るには限界がある。

「どんな限界があるんや?」

「10分でやろうとすると、どうしてもバリカンを使うことになります。バリカンは地肌に沿って這わせるので、頭のカタチどおりにカットしてしまうんです。そうなると、人間の頭は均等なカタチをしていませんから、どうしても全体のバランスが歪んでしまいます」

「『ザンギリ』で、それはないんか?」

「ありません。理容師は、お客さんの頭のカタチや全体のバランスを見ながら丁寧にハサミで切ります。ですから長い間、髪型がキレイでモチがいいんです」

「へー」

「洗髪を2回したり、顔剃りしたり、マッサージしたり、いろんなことをします。言い出せばキリがないんですが、一言で言えば、丁寧に心を込めてやっています」

「なるほどな」立三さんは、何度もうなずきながら感心しているようだった。