人生は自分で判断して、自分で切り開く
「あの、コーヒー飲みませんか?もう少し教えてほしいんですが」
厚かましいと思ったが、立三さんをコーヒーに誘った。
なにしろ、「ザンギリ」の経営は本当に大変なのだ。できるだけ急いで手を打つ必要があった。
「ああ、そう言うたら、あったかいコーヒーが美味しい季節やな」
立三さんは笑い、2人はザンギリの向かいにあるドトールに向かった。
立三さんは歩きながら、「自分がやっているビジネスの『構造』『制約』『仕組み』がわかると、自分がどんな勝負をしているのか、どこにチャンスがありそうか、ようわかるやろ」と話してくれた。
コーヒーを2つ買って、席で待つ立三さんのところに持っていくと、「おおきに」と自分のコーヒーカップを手にとって、「やっぱ知的貢献の対価に飲むコーヒーは最高やな」と香りを確かめた。
そして、唐突に言った。
「隣の文房具店で、何でもええからペンとノート買ってこい」
ノートとペンを適当に見繕って戻ってくると、立三さんはノートを開き、オレにペンを持たせた。
「ええか。今から言うことを書け」
「はい」
「自らを灯明とし、法を灯明とせよ」
オレは立三さんに漢字を教えてもらいながら、言われたとおりの言葉をノートに書きつけた。
「なんすか?これ?」
「釈迦の最後の言葉や。結局な、人生は自分で判断して、自分で切り開くしかない。セルフヘルプや。師匠がいるから、それで何とかなると思うな。最後は自分で何とかする、そう思ってやれ。そしたら道は開けるやろ。まず、できること、思ったことを何でもやってみろ。理容室の経営者になるのは君やからな」
たしかにそのとおりだった。
立三さんにおんぶに抱っこで成功しても仕方がない。
オレは自分で理容室を繁盛させなければならないのだ。
その応援を立三さんにしてもらうだけなのだ。