西新宿に実在する理容店を舞台に、経営コンサルタントと理容師が「行列ができる理容室」を作り上げるまでの実話に基づいたビジネス小説。「小さな組織に必要なのは、お金やなくて考え方なんや!」の掛け声の下、スモールビジネスを成功させ、ビジネスパーソンが逆転する「10の理論戦略」「15のサービス戦略」が動き出す。
理容室「ザンギリ」二代目のオレは、理容業界全体の斜陽化もあって閑古鳥が鳴いている店をなんとか繁盛させたいものの、どうすればいいのかわからない。そこでオレは、客として現れた元経営コンサルタントの役仁立三にアドバイスを頼んだ。ところが、立三の指示は、業界の常識を覆す非常識なものばかりで……。
12/6配本の新刊『小さくても勝てます』の中身を、試読版として公開します。

価格競争の波に吞み込まれる理容業界

オレは、西新宿で「ザンギリ」という理容室を営む夫婦の一人息子だ。

「ザンギリ」は、ヨドバシカメラの新宿西口店から徒歩3分のオフィスビルの地下にある。

バーバーチェア7席の小さな店で、スタッフは、親父、お袋、見習い中の太朗さんとオレの4人。

親父は2店目に向かって貯金を始めているようだが、最近、体調がよくないと言っているのが心配だ。

オレとしても、親父の目の黒いうちに、何とか夢を叶かなえさせたいと思ってはいるのだが、理容業界は、価格競争の波に吞み込まれ、組合所属の「ザンギリ」も経営多難な状態が続いている。

通常、「ザンギリ」くらいの規模の理容室なら、月に800人弱の来客が繁盛店と言われているが、ここ最近の「ザンギリ」の来客数は400人がいいところだ。

自然と、手持ち無沙汰になる時間が増え、店内にもどこかしら弛緩した空気が漂っている。

今どきの若い男性は美容院か「10分1000円の理容室」で髪を切り、中高年の男性のうちそういうところに行かない僅かなお客さんが、「ザンギリ」のような組合所属の4000~5000円の理容室に来てくれる。