緊急特別事業計画の認可で、福島第1原子力発電所の事故に伴う損害賠償への政府の資金援助が始まった。しかし、原発停止による巨額の燃料費アップという新たなリスクに直面している。

「正直いって、原子力損害賠償支援機構(機構)の資金援助がなければ、厳しい状況になっていた」──。西澤俊夫社長は本音を漏らした。

 11月4日、東京電力が機構とともに、福島第1原子力発電所の事故による損害賠償の資金援助を受けるため、政府に提出していた「緊急特別事業計画」が認可された。これに伴って、急きょ行われた2011年度中間決算発表の席上でのことだ。

 この認可で、東電の多額の賠償債務を、機構が交付金を特別利益に計上するというかたちで肩代わりし、その後、東電に「特別負担金」として分割返済させる仕組みが始まった。当面、賠償金による債務超過は回避できた格好だ。

 だが、災害復旧や損害賠償以外でも大きな課題に直面している。

 11年度通期(連結)は、売上高が5兆3150億円(前年度比1.0%減)、営業損益が3050億円の赤字(前年度は3996億円の黒字)、当期損益が6000億円の赤字(同1兆2473億円の赤字)の見通し。

 本業の儲けである営業損益が赤字になる理由は何か。節電や企業の生産活動の落ち込みで、販売電力量が減少する面があるが、最大の理由は言うまでもない。原発停止による燃料費の増加だ。

 原子力設備利用率低下で火力発電所の稼働を増やしたぶんの燃料費が大きなコストアップ要因になっているのだ。

 電力会社の業績は、原子力設備利用率と密接な関係がある。

 過去、東電の業績を見ると、トラブル隠し問題や新潟県中越沖地震で原子力設備利用率が低下した03年度と07年度は営業利益が減少している(図①)。

 原発は、燃料費が少なく、運転費用としての発電コストが安い。したがって、原発の発電比率が増えれば、収支は向上する。

 その一方で、原発は最新の火力発電所の2倍以上と建設費が高く、固定費も他の発電所より高い。たとえば、07年7月の新潟県中越沖地震により、07年度は原子力設備利用率が44.9%と前年度より29.3ポイントも落ちたが、原発コストはわずか8.2%減でしかなかった(図②)。

 さらに、原発は1基当たりの発電規模が100万キロワットと巨大であり、予定外の停止が発生した場合、それを補うための費用は大きな負担となる。