「ラジオ番組を聴いていたら、ゲストにミミズの解剖学者が呼ばれており、パーソナリティが『ミミズは動いていますが、どうしたら生きたまま解剖できるんですか』と質問しました。

 すると学者が、『ミント水に浸して蠕動運動を止めるのです』と答えた。それで閃きました。学生時代、授業で、腸管は蠕動運動していると習ったことを思い出したのです。ミミズの動きを止められるのなら、胃や腸の運動も止められるだろうと考えました」

 胃は通常1分間に3~4回、ゆっくりと動いて消化活動を行う。その動きを、従来は、薬剤の注射で抑制し、検査や治療を行っていた。

「それがすごく痛いし、目がかすんだり、尿が出にくくなったりする副作用があり、不整脈などの持病がある患者さんにも使えませんでした。その上、年に1人ぐらい、亡くなるケースも報告されていたので、なんとかしたいと思っていました」

 さっそく内視鏡検査で使う管を通して患者の胃にミントオイルをまいたところ、ものの10秒もしないうちに動きが止まった。それを機に本格的に研究を始め、03年に論文を発表。

「ただちに製品化しようと動き出しましたが、ほとんどの製薬会社は相手にしてくれませんでした。『馬鹿なこと言っている』と。何社もあたってみて、ようやく、馬鹿なことを馬鹿なことと考えない会社にめぐり合い、10年に保険の認可がおり、11年に発売へこぎつけました。今ではもう、皆さん普通に使っています。胃に散布するだけなので簡単だし、副作用もほとんどない。強いてあげれば、検査の翌朝、お尻がスースーすることぐらいでしょうか(笑)。患者さんからの評判もすこぶるいいですよ」

 食用として伝統があり、広く生活の中で用いられているペパーミントに、こんな使い道があったとは恐れ入る。それに、注射をしなくてもいいというのもありがたい。