言葉のルールを「自分で発見」させる

日本の英語教育が「加工食品を与えるスタイル」になってしまっているのは、基礎知識がないまま「かたまり」を与えると、子どもは何も理解できず、「消化不良」を起こすだろうと懸念されているからです。あるいは、受験対策塾での他教科の指導スタイルが影響を及ぼしている可能性もあります。

とはいえ、10歳くらいまでの子どもなら、「消化不良」はあまり心配する必要はありません。何も文法を教えていない6~7歳くらいの子でも、入塾から半年もすれば楽しそうに英語を話すようになります。ネイティブの先生が「今週はどんなことがあった?」「何か面白いことはあった?」という質問を投げかければ、子どもたちは即興で話をします。
このとき、彼らは「ここの冠詞はaでいいのかな……」とか「三単現のsを忘れないようにしなきゃ……」などといったことを考えません。自分の英語が伝わるのを純粋に楽しんでいます。もちろん冠詞を飛ばしたり、時制がめちゃくちゃだったりすることは珍しくありませんし、ときにはこんな間違いをする子もいます。

I speaked with Grandma.

これもフォニックスのときと同様、いわば「価値あるミス」です。実際、僕がアメリカにいるころには、ネイティブの子どもたちがこれと同じ間違い方をするのを何度も耳にしたことがあります。

英語の「かたまり」に何度も触れるうちに、過去のことには「-d/-ed」をつけるのだと気づき、自らそのルールを応用する――こういった試行錯誤のプロセスを尊重する態度が、子どもの英語学習を見守る大人には欠かせません。

逆に、子どもが秘めている力を信じずに、加工食品のような英語ばかりを与えていると、結局その子は生の英語を消化できないまま成長していきます。
文法や単語の学習は、年齢が上がってからいくらでもできますし、学校英語などでもその機会には事欠きません。むしろ、概念的な学習は、ある程度の学齢になってからのほうが効率も高まります。
英語を英語のまま捉える力を養い、英語に対する自信をつけていくことを考えると、文法やスペルの小さな間違いにはできる限り寛容になり、「自分の英語が通じた!」という体験をたくさん積ませることが大切なのです。

(本原稿は斉藤淳・著『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』から抜粋して掲載しています)

【著者紹介】斉藤 淳(さいとう・じゅん)
J PREP斉藤塾代表/元イェール大学助教授/元衆議院議員。
1969年、山形県生まれ。イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。研究者としての専門分野は比較政治経済学。ウェズリアン大学客員助教授、フランクリン・マーシャル大学助教授、イェール大学助教授、高麗大学客員教授を歴任。
2012年に帰国し、中高生向け英語塾を起業。「第二言語習得理論(SLA)」の知見を最大限に活かした効率的カリキュラムが口コミで広がり、わずか数年で生徒数はのべ3,000人を突破。海外名門大合格者も多数出ているほか、幼稚園や学童保育も運営し、入塾希望者が後を絶たない。
主な著書に、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)のほか、10万部超のベストセラーとなった『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)、『10歳から身につく問い、考え、表現する力』(NHK出版新書)、また、研究者としては、第54回日経・経済図書文化賞ほかを受賞した『自民党長期政権の政治経済学』(勁草書房)がある。