「子どもに英語をマスターしてほしい!」――そんな願いを持っている親御さんは少なくないだろう。しかし、そんな人でも「英語がペラペラになればそれでいい」などとは思っていないはず……。むしろ、本当にわが子に身につけてほしいのは、世界のどこでも生きていける頭のよさ、つまり「本物の知性」なのではないだろうか。
実際、応用言語学や脳科学、教育心理学などのアカデミックな研究では「外国語学習の機会が、子どもの知力やIQを高める」といった知見が蓄積されつつあるという。
いま、こうした科学的根拠(エビデンス)に基づいた指導によって、子どもたちの英語力を着実に伸ばし、人気を集めている英語塾があるのをご存知だろうか。元イェール大学助教授の斉藤淳氏が代表をつとめるJ PREPだ。
本連載では、同氏の最新刊『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語――わが子の語学力のために親ができること全て!』から、一部抜粋して「ほんとうに頭がいい子」を育てるための英語学習メソッドを紹介する。

文法学習では「状況」が抜け落ちてしまう

言葉の意味はつねに「状況」ないし「文脈」のなかにありますから、本当に使える語学力を身につけるためには、状況のなかの意味を理解するトレーニングが欠かせません。言葉の辞書的な意味や、形式的な文法を学ぶだけでは、言葉の瞬発力は絶対に鍛えられないのです。
次のような例文と解説があるとしましょう。

Could you open the window?
──CouldはCanの過去形。ここでは過去の意味ではなく婉曲表現の用法なので、『窓を開けていただいてもよろしいでしょうか?』というより丁寧な意味になる

しかし、この解説はどこまで正確でしょうか?
たとえば、映画のワンシーンで、老紳士が窓を指差しながら、主人公にものすごい剣幕で「Could you open the window?」と叫んでいるのだとしたら?
言葉の表現は同じですが、「状況のなかの意味」はまったく異なります。
むしろ、couldを使うことで慇懃無礼な感じや命令的な態度がいっそう強調されています。しかも、ちょっと嫌味なニュアンスを込めたこういうcouldの使い方は、決して珍しいものではありません。

状況から離れて形式的な文法だけを学んでも、「本来の意味」は抜け落ちてしまいます。だとすれば、老紳士がそうやって叫んでいる様子を「映像」で見ながら学ぶほうが、はるかに効果的だと思いませんか?

なぜ「カードで覚えた単語」は役に立たない?

「状況」のなかで英語を学ぶスタイルは、単語学習にも当てはまります。
小さなお子さんに単語を覚えさせようと思って、子ども用の単語カードを購入した方もいるかもしれませんが、これもあまりおすすめしません。

読者のみなさんのなかには、学生時代に単語帳を使って単語を暗記したという人も多いでしょう。これは「部分積み上げ式英語」の最たるものです。
いまでは、ジャンルごとに関連単語がまとめられているものもありますが、たとえば入試での出題頻度順になった単語帳では、各単語のあいだには何もつながりもありません。つまり、単語が使われる「状況」は捨象されています。

他方、赤ちゃんはやはり「状況のなか」で単語を学んでいきます
「ママ」というのは、家族の構成員を示す一般名詞ではなく、いつも自分を抱き上げてくれる“この人”のこととして理解しています。「リンゴ」というのは、ときどき「ママ」がウサギのかたちに剥いてくれる果物のことです。

一方、アメリカで「apple」といえば、日本産のふじとか紅玉よりも小ぶりな品種がイメージされます。アップル社のロゴマークを思い出していただければわかるとおり、このリンゴは皮を剥かずにそのままかじる食べ方が一般的です。