「方言」で育つと、「英語」で得する?
それどころか僕個人は、地方出身者にもアドバンテージがあると信じています。
僕は18歳まで「庄内弁100%」の環境で育ちました。いまでも週の半分は山形で過ごしていますので、僕は「標準語・英語・庄内弁」のトリリンガル(3ヵ国語)環境で生活していると言っても過言ではありません。こうして「英語」に関する記事を「標準語」を使いながら書いてはいますが、本当にうれしいとき、悲しいとき、怒ったときに、心のなかにふと浮かんでくる言葉は、英語でも標準語でもなく「庄内弁」だったりします。
僕の地元である酒田市はとくに訛りが強く、妻が初めて僕の実家に来たときには、祖母が何を話しているかほとんど何もわからなかったくらいです。そんなわけで、小学校5年生の夏休みに東京の親戚の家に遊びに行って以来、僕は自分の発音をかなり意識して矯正してきました。無意識のうちに訛りが出ていないかだけでなく、標準語と庄内弁はどこがどう違うかということも、子どもながらにいつも分析していたのです。
「“し”どごはずおんすなさ、“す”って言わねよ、気ぃつけねまねなやの。困たちゃ……(“し”の発音が“す”にならないよう気をつけなきゃ。困ったなあ……)」
長い目で見れば、中学校で英語を本格的に学びはじめる前にこうした機会を得たことが、とてもいい結果を生んだと思います。2つの言葉の差を見つめ続けたことで、「文字と音の関係」にとても敏感になったからです。
英語の「文字と音の関係」を学ぶうえでは、方言を話す地方出身者のほうが、客観的な視点を持つチャンスに恵まれていると思います。逆に、「標準語ネイティブ」の子たちは、母語の音の成り立ちを意識するタイミングがあまりないので、実際に指導をしていても、ちょっとだけ苦労することがあります。
(本原稿は斉藤淳・著『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』から抜粋して掲載しています)
J PREP斉藤塾代表/元イェール大学助教授/元衆議院議員。
1969年、山形県生まれ。イェール大学大学院博士課程修了(Ph.D.)。研究者としての専門分野は比較政治経済学。ウェズリアン大学客員助教授、フランクリン・マーシャル大学助教授、イェール大学助教授、高麗大学客員教授を歴任。
2012年に帰国し、中高生向け英語塾を起業。「第二言語習得理論(SLA)」の知見を最大限に活かした効率的カリキュラムが口コミで広がり、わずか数年で生徒数はのべ3,000人を突破。海外名門大合格者も多数出ているほか、幼稚園や学童保育も運営し、入塾希望者が後を絶たない。
主な著書に、『ほんとうに頭がよくなる 世界最高の子ども英語』(ダイヤモンド社)のほか、10万部超のベストセラーとなった『世界の非ネイティブエリートがやっている英語勉強法』(KADOKAWA)、『10歳から身につく問い、考え、表現する力』(NHK出版新書)、また、研究者としては、第54回日経・経済図書文化賞ほかを受賞した『自民党長期政権の政治経済学』(勁草書房)がある。