キャリアからトリップへ
みんなが自動的に偉くなっていく世界は、残念ながら終わってしまった。がんばっていればきっと立場も収入も上がっていくと思える状況にいる人は、きっと多くはないはずだ。
それでも、みんな少しでもキャリアを積んで「上に」上っていこうと努力している。その努力は僕らもしていないわけではないし、悪いわけではないけれど、そもそも考え方から変えていった方がいいのではないかという気がしている。
技や知識や経験を積み上げていくのは立派なことだけれど、出世だとか、やがては独立だとか、起業すればいつかは上場だとか、とにかく上に上らないといけないという切迫感のようなものを前提とする必要はないと思う。これらには、どこかで空虚感に包まれそうな感じがする響きがある。
人が幸せを感じるのは、何を持っているか、どんなポジションにいるか、といった絶対値とは関係ないと思う。昨日よりも進化している実感を持てたり、先に向けて希望があったり、仲間たちと共に目的に向かう前進にこそ充実感や幸せを感じると思う。
あまり偉そうなことは言えないけれど、人生の軸はキャリアよりも「旅」みたいなものだという感覚がある。同じ場所にいる必要はなく、むしろどんどん新しい場所へ動いていけばいい。いつもグレードアップしなくてもいいし、時には贅沢し、時には節約し、好奇心を高めて感動や刺激や出会いを求めながら、何かを見つけていけばいい。どこかで人や場所と運命的な出会いがあれば、そこに一生いてもいい。
その一方、一つの場所にじっくり住むように滞在する旅もある。観光地を一通り回っただけでは見えてこない、本当のその場所の良さが見えてくる。刺激に疲れ、自分をニュートラルな状態に戻すためにはそういう時間も必要だ。
人生計画はあってもいいけれど、キャリアプランというとついついカタくなる。だからトリッププラン、つまり旅の計画をする感じがいいのではないかと思う。キャリアというのは「積み上げ」るものだけれど、人生や仕事はそんなに思う通りにはいかないものだ。
人の可能性はもっと偶発的に開いていくものかもしれない。いっそのこと、人生をいくつかに分けてしまってもいいかもしれない。いずれにしても、やったことは積み重なって知恵になっていく。
仲間が広がっていけば、好奇心さえあれば、ステータスが上がるかどうかはわからないけれど、進化していくと思うし、幸せになる。「スキル」じゃなくて、知恵とつながりを積み上げて、生命力をつけていく。
会社勤めというのも、それがフツウである社会はここ数十年の話だという。5、60年前は、個人や家族で仕事をしていた人が圧倒的に多くて、会社に勤めていたのはほんの一部だったと聞く。この先世の中どうなるかなんてわからないし、いろいろな意味で流動的でいた方が強いと思う。時代はすでにそうなってきている。会社にいる自分も、会社をやっている自分も今の姿であって、やがて次の目的地を見つけていけばいい。
今の僕らのチームは旅先で気に入った居心地の良い街なのかもしれないけれど、終の住まいになってもそれはそれで悪くない。まずは今、この数年間を100%充実させたいというのが僕らの感覚だ。