東京理科大学学長の藤嶋昭氏が、2017年度「文化勲章」を受章した。
藤嶋氏が開発した「光触媒」は、今年で発見50周年を迎える。
東海道・山陽新幹線「のぞみ号」の光触媒式空気清浄機、成田国際空港の光触媒テント、パナホームの一戸建て、日光東照宮の「漆プロジェクト」から、ルーブル美術館、クフ王の大ピラミッド、国際宇宙ステーションまで、光触媒の用途はとどまることを知らない。日本だけでなく世界へ宇宙へと広がっているのだ。
2020年東京五輪で「環境立国」をうたう日本にとって、光触媒は日本発の世界をリードするクリーン技術の生命線。酸化チタンに光が当たるだけで、抗菌・抗ウイルス、防汚、防曇、脱臭、大気浄化、水浄化など「6大機能」が生まれるので世界中で重宝されている。これからの時代、文系、理系を問わず、光触媒の知識が少しあるだけで、あなたは羨望の眼差しを受けるかもしれない。文化勲章受章まもなく発売され、注目を集めている『第一人者が明かす光触媒のすべて――基本から最新事例まで完全図解』の著者を編集担当が直撃した(構成:寺田庸二)。
東京ドームの
テント膜材を作った会社
光触媒機能を持つ外装用建築資材の中でも、テント膜材はユニークな発展を遂げています。
テント膜材といえば、東京ドームを思い浮かべる方も多いのではないでしょうか。
1988年に誕生した東京ドームの屋根は、ガラス繊維にフッ素樹脂をコーティングしたテント膜材で構成されていて、四半世紀以上が経った現在でも、十分な強度が保たれています。
しかし、東京ドームが施工された頃は、残念ながら光触媒の応用研究はまだ黎明期でしたので、表面を自動的にキレイに保つセルフクリーニング機能はついていません。
その後、東京ドームの膜材を作っていた太陽工業が複数の企業と協力し、光触媒技術をテント膜材に導入する応用開発に取り組み、現在では光触媒テントとして、様々な実績が広がってきています。
屋外で長期間使用される膜構造建築物の膜材料には、大きく分けて2種類あります。
ひとつは塩化ビニル樹脂がコーティングされた塩ビ膜で、もうひとつは、フッ素樹脂がコーティングされたフッ素膜です。
塩ビ膜の場合には、塩ビが酸化チタンの酸化分解力で劣化してしまうため、中間にバリア層(保護接着層)を介在させて、その上に光触媒層をつけます。
一方、フッ素樹脂は酸化チタンによって酸化分解されないため、酸化チタン微粒子を配合したフッ素樹脂を、ベースとなるフッ素樹脂膜の上に直接コーティングします。
このフッ素樹脂膜材では、光触媒の粒子が膜材と一体化していて劣化することがなく、半永久的に光触媒機能を維持することができます。