江戸の町を代表する『江戸三白《えどさんぱく》』の一つ、「大根」。

 あとの二つの“白”は「米」と「豆腐」で、どれも江戸っ子に愛され、頻繁に食べられていた食材です。

 この三つの食材の共通点は、主張せず、他の食材をいかようにも受け止めるけれど、なくてはならない存在――ということだと思います。

 こんな人物が身近にいたら、さぞや心強いことでしょうね(笑)。

 特に大根の食べ方たるや、生、煮る、焼く、炒める、揚げる、干す、漬ける、すりおろす……と、なんでも来い。

 大根がおもしろいのは、生はさっぱりと瑞々しいのに、おろすと途端に辛くなり、火を通すと甘くなることで、まさに変幻自在の食材です。

大根の煮物
【材料】大根…1/2本/米のとぎ汁…適量/だし…3カップ(600ml)/塩…小さじ1/2/醤油…大さじ1/みりん…小さじ1/青のり、粉山椒、柚子の皮など…適量
【作り方】①大根は皮を厚めに剥き、厚さ3cmの輪切りにして面取りをし、片面のみに深さ1cmの隠し庖丁を十文字に入れる。②鍋に1を並べ、米のとぎ汁か小さじ1の米を入れた水をかぶるまで入れて中火で30分ほど煮る。鍋と大根を水洗いし、再びだしとともに中火にかけ、塩、醤油、みりんを入れて落としブタをし、弱火で30~40分煮る。③鍋ごと一旦冷まして味を含ませ、食べる前に再び温める。青のり、粉山椒、柚子の皮など、お好みの薬味を添える。

 江戸時代中期の天明2年(1782年)、『豆腐百珍』という料理本がベストセラーになって以降、“百珍物”と呼ばれる、1種類の素材で100通りの調理法を紹介する料理本がブームになりました。

 鯛、玉子、蒟蒻など、さまざまな百珍物が刊行される中で、『豆腐百珍』刊行から約3年後の天明5年(1786年)、『大根一式料理秘密箱』と『諸国名産大根料理秘伝抄』が出版されました。

 作者は四条流の流れをくむ料理人「器土堂」と言われており、大根の切り方から調理法、諸国の名物料理まで、大根の魅力を余すところなく引き出しています。