日本は今ほんとうに国難を迎えているのか?2017年上半期の米アマゾンのベストセラー歴史書『米中戦争前夜 新旧大国を衝突させる歴史の法則と回避のシナリオ』の刊行を記念し、世界のパワーバランスの変化を踏まえ、日本は政治経済両面でどのような戦略を練るべきか、本テーマに造詣の深い実務家・識者に伺っていきます。パワフルかつ合理主義な辣腕ビジネスパーソンとして知られ元中国大使でもある丹羽宇一郎氏には、今しばらくアメリカ優位が続くという見通しなどを伺った前編につづき、北朝鮮問題など安全保障政策で日本がとるべき道や嫌中ムードの背景を聞いていきます。
――戦争を知らないリーダー世代を増えたことの怖さを、常々指摘されています。
憎しみ合い、殺し合わなきゃいけない理由は、大部分の国民にはないんだ。それを為政者をふくむ21世紀のリーダーは自覚しなければいけない。
ただし、リーダーとはいえ一人や二人に地球を委ねるわけにはいかない。個人に任せるには力に余る。国連や国会の決議ではかるべきテーマだ。安倍が悪い、トランプが悪い、と個人を追及してもいけない。
防衛力は念のために必要だとしても、戦争から遠ざかるという決議が必要ではないか。きっかけがサイバーアタックだったりすると、どちらが仕掛けたかもわからないし、出口がない戦争で力と力のせめぎ合いをしても悲惨な結果しかない。
――長期的なパワーバランスの変化を考えると、現在の日本の外交政策は親米に偏りすぎている印象もあります。
日本は自律の精神をもたないといけない。アメリカは自分第一と言っているのに中東や北朝鮮などあちこちで口だけは出すし、武器を買えと圧力をかけてくるが、世界の警察じゃないというならもう少し黙っていてほしい。日本はアメリカに守ってもらうほどターゲットにされるのだから、守ってもらう必要もない。ただ、中国もまだ国際的な価値観を持ち合わせていないので、日本が仲よくしようと思っても実際は難しいだろう。
ではどうするかといえば、問題が生じたときは、関係国で個別に集まって協議すべきではないか。日本の明治期の五箇条のご誓文でも、アメリカの独立宣言でも、謳われているのは自由、平等、平和ですよ。同じことが書かれている。西郷隆盛の征韓論だって、結果的にうまくいかなかったけれど、世界に開国しないと戦争になるぞ、というのが骨子だったはず。そう考えると、アメリカ人も日本人もまったく進歩していないどころか、退化している
日本が今なぜ「国難」なのか?国民は声を上げるべき
――北朝鮮問題については、米中韓で手打ちをして日本が蚊帳の外におかれる可能性はないですか。
それで済むならいいんです。ただし、北朝鮮とアメリカはいまだに戦争状態で互いに不信感の固まりなので、手打ちができる状態とは思えない。だから、アメリカはみんなを誘って攻めようとしている。安倍首相もリップサービスなのかもしれないが「(日米が)100%ともにある」(2017年11月トランプ大統領訪日時の共同記者会見での発言)なんて言ったが、これは言われたとおりにやるということであって、軽々に言うべきではない。日本は、日本なりの専守防衛を堅持すべきだ。
アメリカのガラス窓が落ちるようなヘリコプターを買わされたり、事故の多いオスプレイを配置されたり、都合よく使われている。きっと北朝鮮などの有事なくしてはアメリカの軍需産業は赤字のはず。日本が今なぜ「国難」なのか。安倍首相がまるでみずから作っているようなものだ。国を押しとどめるためには、われわれ国民が声を上げなくてはいけない。声を上げなければみんな賛成だと思われてしまう。
――ただ、現在の一般の日本人の中国嫌いは深刻です。
1982~87年の胡耀邦国家主席時代には、中国人の88%が日本人を好きだと言っていたし、日本側も同様だった。しかし、ごく最近の調査(ピュー・リサーチセンターの2015年調査資料「世界各国の中国に対する印象」)では、日本人の89%が中国人を嫌いだと言っているらしい。
考えてほしいのは、調査は調査だし、現実をどの程度表しているかは分からないということです。中国人でも日本に来たことがある人は、ほとんどが日本を好きになっていますよ。だから、どんな調査や報道があったとしても、まずは自分で足を運んでみてみなければわからない、と思ってほしい。
――観光やビジネスの交流も増えました。
実際、この45年間に両国を行き来する人は1万人から約1000万人と1000倍に増えたし、貿易も10億ドルから3000億ドルと300倍に増えた。
両国の国民がとにかく勇気をもって絶えず交流して、価値観や文化を認め合うこと以外に妙手はない。仲よくすればいいんだ。お互い知り合えば、おかしなことで笑ったり、悲しくて泣いたりできる。同じ人間ですよ。「あいつが悪い」なんて言い出したら、理屈や大義名分はいくらだって口先三寸でつけられるもの。だから、とにかく国民は国民同士で現場へ行って交流し、政治に声をあげることが大切です。