労働力不足のスパイラルが
発生するメカニズムに要注目

 今後の景気動向にもよるが、景気がよほど悪化しなければ、労働力不足の悪化は止まりそうにない。中長期的には少子高齢化の影響もあるが、短期的にも相当深刻化する可能性がある。

 そう考える最初の根拠は、値上げに成功した業界の事業者が、他業界から労働力を奪い取ることである。それによって他業界も、労働力を奪われないよう賃上げする必要が出てくる。すでに、非正規労働者の時給は需給逼迫によって値上がりしているが、各社の"労働力確保合戦"が激化すれば、賃金は上昇速度を増していくだろう。

 そして、労働力不足が深刻化して賃金が上昇すること自体が、さらに労働力不足を深刻化させるメカニズムに注目したい。

 主婦のパートに関しては、年収が一定水準を超えると社会保険料負担などが生じる "年収の壁"があるため、時給が上がると働く時間が短くなってしまう。この点については拙稿「パート主婦『103万円の壁』が年末の労働力不足を深刻化している」をご参照いただきたい。

 学生アルバイトについては、「時給が高いなら、もっと働こう」という学生もいるだろうが、「生活費が稼げるだけ働いて、あとは余暇を楽しみたい(勉強を頑張りたい?)」という学生も多い。後者の学生については、パートの主婦と同様、時給が上昇すれば労働時間を短くするだろう。

 正社員についても、「長時間残業をさせるという噂が流れると新卒採用に際して学生が集まらないから、長時間残業を禁止しよう」といった企業が出てくるかもしれない。すると、新入社員獲得競争のために残業を削減し、日本経済全体としての労働力不足が一層深刻化したといった事態も想定される。

 このように、ひとたび労働力不足が深刻化すると、さまざまなところでスパイラルが発生し、労働力不足をさらに加速させる事態が起きかねないのだ。

何でも「困った」と伝える
マスコミの報道には要注意

 労働力不足とうのはネガティブな言葉だ。マスコミは、これを「困ったこと」として報道する場合が多い。しかし、実際には素晴らしいことである。  確かに、人が足りない企業は困ったと感じているだろう。だがこれは、前述の通り、デフレ時代の経営者が聞いたら泣いて喜びたいほどの状況なのだ。皆が困っている時には「みんなで値上げすれば怖くない」からだ。

 労働者にとっては、文句なくありがたい状況で、「労働力不足」と呼ばずに「仕事潤沢」とでも呼ぶべきだと思う。 「仕事潤沢」により失業者が仕事にありついているし、さらに進めば、正社員になれずに非正規労働者として生計を立てている「ワーキングプア」と言われる人々の待遇も改善する。

 また、中小零細企業においては、労働力確保のために賃上げをするところも出て来るだろうし、大企業のサラリーマンの賃上げは期待薄だが、サービス残業などは減るだろう。

 マスコミは、悲惨な話や、残念な話の方が読者や視聴者に喜ばれるため、「困った」というスタンスの報道をしがちだが、情報の受け手は同じ事象を「よかった」と捉える努力が必要だ。

 余談だが、労働力不足が賃金上昇を通じて値上げの動きにつながれば、インフレ率が2%に達するかもしれない。そうなれば、日銀にとっても喜ばしいことだろう。生活者にとってインフレは決して嬉しいことではないが、それで日本経済がうまく回り、恵まれていない人々の状況が改善するのであれば、高い見地から喜ぶこととしよう。

(久留米大学商学部教授 塚崎公義)