欧州債務危機でライバルの欧米銀行が沈むなか、邦銀の盟主、三菱UFJフィナンシャル・グループが海外展開を加速している。邦銀の殻を破ることができるか。その実現可能性を探った。
「TOEICのハイスコアか、海外赴任の経験が昇進の条件になるとのうわさが行内で流れている」
三菱UFJフィナンシャル・グループ(MUFG)の中堅行員は苦々しそうに言った。最近、「国内部門から海外への異動が相次いでいる」という。
メガバンクの雄が海外シフトを加速し、“メジャーリーガー”への脱皮を本気で狙っている。
それを裏づけるかのように、MUFGは今年度、矢継ぎ早に海外強化の布石を打ってきた。
7月には国際金融界でのプレゼンス向上を狙って、傘下銀行2行と証券会社の海外事業を横串で一体運営する「国際連結事業本部」を設置。さらに1000億円の巨費を投じて、海外決済業務のテコ入れ策を打ち出した。
MUFGの中核である三菱東京UFJ銀行(BTMU)は2011年度上期、海外の粗利益が3005億円に達し、全体の23%を占めた(図①)。
BTMU内では、海外の収益比率を4割程度まで高めることが目標となっており、海外収益のさらなる拡大を狙う考えだ。
MUFGが海外シフトを急ぐのには理由がある。国内市場の低迷だ。図②を見てほしい。10年4月、MUFGの国内法人貸し出しは41兆円を超えていたが、わずか1年半後の11年9月には39兆円を下回る水準にまで落ち込んだ。
MUFGの経営幹部も「うちは国内市場で競争力がなく、今後も貸し出しの減少は続くだろう」と苦しい胸の内を明かした。
この落ち込みを補うためにも、海外法人貸し出しの増加が喫緊の課題だった。そして実際に、アジアの非日系企業を中心に同期間で一気に3兆円も積み増すことに成功している。
もともとMUFGは邦銀勢のなかでは、頭一つ抜けた存在だった。他の2メガバンクグループと比較すると、海外拠点数は倍、海外貸出残高もケタが一つ異なるほどだ。
このまま順調に海外シフトが進めば、MUFGの永易克典社長が繰り返し発言してきた「グローバル市場で名誉ある地位を占める」ことが視野に入ってもよさそうだが、メジャーリーグはそれほど甘くはないようだ。