無期転換した派遣社員を
受け入れない企業も

 こうしたデメリットを考えても、雇用の安定に大きな魅力を感じる人は少なくないだろう。しかし、望んで無期派遣になったからといって、必ずしも雇用が安定するとは言い切れない。無期派遣を受け入れる側の「事情」があるからだ。

 派遣会社は、無期転換した派遣社員を抱えると管理費等のコスト負担が増す。特に仕事が見つからない待機中の派遣社員が多くなると死活問題だ。欧州では派遣社員の待機期間中の保障を国や産業界で行っているが、日本にはそうした支援がなく、派遣会社の自腹となる。

 そのコスト増の影響は、派遣料金に及ぶ。ある派遣会社の営業マンによると「企業側には、最低でも10%~20%は今より派遣会社への支払いを増やしてもらう必要がある」という。派遣社員の受け入れによるコスト上昇を防ぐため、今まで通り有期の派遣社員を求める派遣先企業は多いだろう。実際、「無期転換した派遣を受け入れないと答えている企業が3割ほどはある」(前出の営業マン)という状況で、4月以降は無期派遣にこだわらず、有期の派遣だけでローテーションできるよう、割り振る業務を見直す企業もあるという。

 これまでは、秘書、翻訳、開発、機械設計といった専門性の高い「政令26業務」の派遣社員については派遣先企業と派遣社員が望めば契約が更新され続けた。しかし、4月以降に無期派遣を選択した人は、派遣会社と派遣先企業の交渉がうまくいかなければ、本人の希望に関係なく、就業先を変えられてしまいかねない。就業先を変えたくなければ、有期のままで働き続ける選択肢はある(注2)

 派遣会社から無期転換の話があり、無期雇用派遣になることを決めた40代の女性は「まだ就業先が無期転換した派遣社員を受け入れるか方針が決まらないらしく、失職しないにしても、4月以降同じ会社で勤められるかどうかわからないのは不安」とこぼす。

 就業先が変わるだけならまだいい。派遣社員と企業のマッチングが難しいケースが増えれば、4月に有期契約が5年を超える派遣社員と契約を更新しないという、心ない派遣会社が増える可能性も否定はできない。

 お金か、それとも働き甲斐か。将来、多少の環境変化が起きたとしてもモチベーションを見失わないよう、自分が働く上での核が何なのかを熟慮して決めなくてはならない。

(注2)ただし後述の改正労働者派遣法により、2015年10月以降に契約した人は、3年以上同じ部署で派遣社員として働き続けることができない。