どうすれば外国語を10年、20年と記憶に残すことができるのか?あの中野信子氏が絶賛した話題の新刊『脳が認める外国語勉強法』には、ヒトの記憶の特性を最大限活用し、一度覚えたら単語も文法も忘れなくなる方法を紹介している。特別に一部を無料で公開する。

「重要な記憶」と
「忘れてもいい記憶」の違いとは?

英単語の暗記には「ドーパミン」を使え

 脳の奥深くに、タツノオトシゴとアーモンドの形状をした部位がある。この2つの部位が起こす複雑な化学反応によって、何が重要で何を忘れてもいいかの判断が生まれる。

 タツノオトシゴの形状をした部位は「海馬」と呼ばれ、思考を切り替える役割を担う。脳内の離れた部位をつないだり、ニューロンのネットワークを構築したりする。

 新たに生まれた記憶(注1)を思いだすためには、必ずそのネットワークにアクセスすることになる。つながりが生まれたニューロンがふたたび活動することで、過去の体験が再生されるのだ。年月が経つにつれ、ネットワークに組み込まれたニューロンは海馬のネットワークに依存しなくなり、脳のいちばん外側で独自に活動するようになる。

 海馬とともに化学反応を起こすパートナーが、アーモンド形をした「扁桃体(へんとうたい)」と呼ばれる部位である。扁桃体は何を保存し何を捨てるかを海馬に指示する。この指示は、感情を化学物質に変換することで行われる。

 その刺激が副腎(腎臓の上に位置する左右1対の臓器)に伝わり、状況に応じて記憶の定着を助けるホルモンが副腎から大量に放出されるのだ。

 たとえば、「トラだ!ああ、腕が食われそうだ!」といった状況で感情の高ぶりが起これば、扁桃体はその記憶を強化しようとする。一方、「なんだ、鉛筆か。腹の足しにならないな」といった状況は感情の起伏も記憶の強化も起こらない。

 その結果、トラには健全な恐怖心を抱くし、鉛筆は食べ物ではないという健全な認識が残るというわけだ。

注1 ここで言う「記憶」は、事実や出来事を保持する「陳述記憶」を指す。習慣や技能など言葉で説明できない「非陳述記憶」は、陳述記憶とは別の場所に保存されているらしい。海馬を損傷すると新たな陳述記憶は作れなくなるが、絵を描くといった技術は、やり方を思いだすことはできなくてもその技術を習得し向上させることはできる。