革新的なアイデアを次々に投入し、瀕死のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をV字回復させたことで知られる稀代のマーケター・森岡毅氏。2017年に独立しマーケティング精鋭集団「株式会社刀」を設立した森岡氏が、多くの日本企業でマーケティングがうまく機能しない理由について「森岡流マーケティング発想」を元に解説する短期連載。第3回は「マーケティングが機能しない企業にある根深い“3つの呪い”」について語る。
コミュニケーション不全は「神経伝達回路」が破壊されている状態
前回、マーケティングが組織の中で機能しない理由として「個人のエゴが優先される」「組織の中でコミュニケーション不全が起こっている」という二つを取り上げ、前者について解説しました。今回は後者の「コミュニケーション不全」についてです。
マーケティングを機能させようと思ったら、「いかに組織のコミュニケーションを活性化できるか」、ここに掛かっていると言っても過言ではありません。
かつて私がUSJでやったことが何なのかと改めて考えてみると、確かに、マーケティングの個人能力を高める育成トレーニングもたくさんやりましたし、私が持っているマーケティングのフレームワーク、数式、モジュールなども、多くを持ち込み、“移植”しました。そうしたノウハウの獲得と蓄積が大きかったことも事実でしょう。
しかし、本当の意味で一番効果が高かったのは、「ボトムアップでさまざまな意見やアイデアが出てくるようになった」という点。言い換えるなら、組織としてのコミュニケーションが活性化されたということです。
組織におけるコミュニケーション不全とは、人体で言えば、それぞれの器官を結ぶ神経伝達回路が正しく機能していない状態。手が燃えているのに、それを脳が認識していなかったり、脳が「右足を動かそう」と指令を出しても、足が前に出なかったりするわけです。そんな状態では、人体も、組織も、まともに動けるはずがありません。
しかし、世の中の多くの企業でこの問題が起こっています。たとえば、ある部署が消費者の動向を正確に捉えたとしましょう。人体で言えば、目が真実を捉えた瞬間です。しかし、それをそのまま部長に伝えてしまうと、部長の顔を潰すことになってしまう。だから、見たものを歪め、忖度し、マイルドにしてから部長に報告する。せっかく目は「正しい情報」をキャッチしているのに、それを伝える段階で、大きく歪められてしまうのです。そんな「歪められた情報」をもとに、意思決定がなされますし、その意思決定を実行する段階でもまた、神経回路が壊れていますから、現場はまるで違う行動を起こす。
そんな、脳に幻覚を見せるようなことが組織では多く起こっているのです。
市場構造を分析して、自社のブランド価値を高める戦略を構築しても、どれだけどこの部門が優秀でも、組織の神経回路が破断していては、マーケティングはおろか全社レベルの統合された判断と行動が機能しないのです。