革新的なアイデアを次々に投入し、瀕死のユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)をV字回復させたことで知られる稀代のマーケター・森岡毅氏。2017年に独立しマーケティング精鋭集団「株式会社刀」を設立した森岡氏が、多くの日本企業でマーケティングがうまく機能しない理由について「森岡流マーケティング発想」を元に解説する連載。第1回は「そもそもマーケティングとは何なのか?」について語る。

USJ再建の森岡毅が語る、マーケティング下手な企業に足りない3つの視点森岡毅(もりおか・つよし)/1972年生まれ。神戸大学経営学部卒業後、96年P&G入社。日本ヴィダルサスーン、北米パンテーンのブランドマネージャー、ウエラジャパン副代表などを経て、10年にUSJ入社。12年同社CMO、執行役員、マーケティング本部長。17年に退社し同年マーケティング精鋭集団「株式会社刀」を設立。著書に『USJのジェットコースターはなぜ後ろ向きに走ったのか?』『USJを劇的に変えた、たった1つの考え方 成功を引き寄せるマーケティング入門』『確率思考の戦略論 USJでも実証された数学マーケティングの力』。
Photo by Tomomi Matsuno

多くの人がマーケティングを誤解している

 マーケティングという言葉は知っていても、本当の意味やその幅を正しく理解している人は、まだ少ないと感じます。

 マーケティングへの誤解の特徴は、マーケティングを狭い意味で捉えている人が多いという点。「広告宣伝部のようなもの」くらいに捉えている人がとても多く、「企業から発信されるメッセージを伝える役割=マーケティング」だと誤解されているのです。

 でも、それはマーケティングのごく限られた一部でしかありません。

 私はよく、マーケティングとは「価値を創造する仕事」と説明しています。市場における価値を創造すること「全般」がマーケティングの役割なのです。

 我々マーケターは、価値を「ブランド」とも定義しますが、要するに、消費者の頭の中で知覚される「価値」、つまり「ブランド」を作る仕事はすべてマーケティングの領域です。

 たとえば、目の前にペットボトルのお茶がある場合、狭義のマーケティングでは、「この商品をどう売ろうか?」というところだけを考えます。「テレビコマーシャルはどうするか?」「キャッチコピーはどうしようか?」「店頭の販売価格を操作しようか?」「どんなセールスプランで動いていこうか?」などです。

 でも、これら「作ったものをどう売ろうか」という仕事は、マーケティングの戦術段階でのほんの一部の仕事にすぎません。しかし、これらがマーケティングだと誤解している人が多いので、広告代理店の仕事とマーケティングの区別がつかず、混同されてしまうのです。