「仕事がもう限界だと思ってたけど、この本に出会って救われた」。そんな声がいくつもいくつも集まっているのが、NewsPicksパブリッシング創刊編集長が書いた『弱さ考』だ。
本書から、著者が「キレない人間」から「キレる人間」に変わってしまった理由について書かれた部分を紹介する。(構成/ダイヤモンド社 今野良介)
「積極的にキレる」わけではない
僕は元気だった頃「自分はけっこう理性的な人間だ」と思っていた。
本だってそこそこ読んでたし。「理性とは何か」についても、ふだんから考えていた。えらい。
僕なりの定義では、理性とは「本能のままにふるまうと問題が起きそうなとき、後天的に得た知識をもとに、自分をコントロールすること」。
つまり、本能のエラーを理性がコントロールすると考えていた。
それがどうだろう。「うつは休めば治る」という知識は頭に入っていても、まったくそうは思えない。冗談かと思われるかもしれないが「もう一生治らない」と本気で信じこんでいた。
わかりやすく理性が吹き飛んだ瞬間がある。
当時、娘は3、4歳だった。予想もつかないタイミングで、いきなり大声で泣き叫ぶ。3、4歳とはそういう生き物だ。
僕は、娘に何度も「キレ」た。とくに症状がひどかった時期は、大声で泣く娘に対して
「うるさぁぁあーーーい!!!!!!!!!」
と、倍の音量で叫び返した。

「キレない人間」から「キレる人間」に変わってわかったのだが、人が「キレる」ときは、だいたい極限まで追い詰められ、余裕を失ったときだ。
うつの底にいた時期は、存在するだけで、生きているだけでつらかった。それくらいエネルギーが枯れ果てていた。
そんな状態の僕の鼓膜に、娘の大声が届く。理性は一瞬で蒸発する。僕は絶叫する。積極的に「キレる」のではなく、あらゆる感情や意識を喪失した結果、ストッパーが外れ、叫ぶ。
コントロールが効かない脳になって、僕は理性の儚さを知った。
過去の自分が少しでも理性を発揮できていたとしたら、たまたま余裕があったから、幸運だったからにすぎない。
「自分にも他人にも、あまり理性を求めない」
「非理性的に聞こえる『弱音』にも、ちゃんと居場所を与える」
僕がいま大事にしているこれらの方針は、理性が長い間お留守にしていたこの頃の経験からきている。
(※本記事は、書籍『強いビジネスパーソンを目指して鬱になった僕の 弱さ考』の内容の一部を編集して掲載したものです)

1988年大阪生まれ。京都大学総合人間学部卒業。ディスカヴァー・トゥエンティワン、ダイヤモンド社を経て2019年、ソーシャル経済メディアNewsPicksにて書籍レーベル「NewsPicksパブリッシング」を立ち上げ創刊編集長を務めた。代表的な担当書に中室牧子『学力の経済学』、マシュー・サイド『失敗の科学』(ともにディスカヴァー・トゥエンティワン)、北野唯我『転職の思考法』(ダイヤモンド社)、安宅和人『シン・ニホン』(NewsPicksパブリッシング)などがある。2025年、株式会社問い読を共同創業。