現在、日本の性教育は、教育課程の家庭科や保健科といった授業で実施されている。しかし、欧米などの教育先進国をはじめ、アジア諸国と比較しても、その内容は乏しいと指摘されがちだ。人が生きていくうえで避けては通れない「性」にまつわる教養。タブー視される向きもある中、公教育はどこまで担うべきか、専門家に聞く。(フリーライター 末吉陽子)
長年、教育現場を悩ませた
「性教育はどこまで行うべきか?」
「人間は成長過程で性を自然に理解し、習得すべきもの」――そう考える人は少なくないだろう。性は極めてプライベートな感性を刺激し、神秘的であり、エロティシズムと切り離せないテーマでもある。それゆえに、習得の手段として、義務教育で学ぶ「英・数・理・社・国」といった教科と同列に教えることは難しい。
しかし、それでも公教育で科学的な見地に基づいて学ぶ必要があると訴えるのは、日本の性教育の変遷に詳しい埼玉大学教育学部の田代美江子教授である。
「日本の性教育のはじまりは、敗戦直後から国が主導してきた『純潔教育』に遡ります。『子女の教育指導によって正しい男女間の交際の指導・性道徳の昂揚をはかる為措置を講ずること』『正しい文化活動を助成して青年男女の健全な思想を涵養するために措置を講ずること』を目的に、風俗対策や治安対策の一環としてスタートしました」
「1972年には日本性教育協会が設立され、純潔教育から、性行為に関する諸問題を科学的に解明しようとする学問(性科学)を主軸にする性教育へと転換。以来、諸外国の性教育情報なども取り入れながら、少しずつ進展してきました」