顧客が企業の場合、そして技術性の高い商品の場合、個人の営業努力には限界があり、顧客の求めに応え切れない。しかし営業の世界では、個人の成績を重視する傾向が根強い。またチームワークを奨励していても、人間関係の円滑化、互助の精神といったソーシャル・キャピタルの醸成を目的としている。正式なシステムとして、チームの成績を評価し、これを報酬に反映させる営業組織は少ない。本稿では、個人の営業努力とチームワークを両立させるポイントについて探る。

個人戦から組織戦の時代へ

 アカウント・エグゼクティブ(顧客担当責任者)は、重要な顧客への売り込みと緊密な関係を樹立する責任を負っている。彼らは、同僚と交わしている会話で次のように語っている。

フランク V. セスペデス
Frank V. Cespedes
ザ・センター・フォー・エグゼクティブ・ディベロップメントのマネージング・パートナー。本稿執筆当時はハーバード・ビジネススクール助教授。主要な著書にConcurrent Marketing: Integrating Product, Sales and Service, Harvard Business School Press, 1995.がある。

ロバート J. フリードマン
Robert J. Freedman
ニューヨークに拠点を置くオーガニゼーション・リソーシズ・カウンセラーズ(ORC)の社長兼CEO。同社は、1926年にジョン D. ロックフェラーが設立したインダストリアル・リレーションズ・カウンセラーズ(IRC)を母体として、53年に設立された組織ならびに人材のコンサルティング会社。本稿執筆当時は、タワーズペリン・フォスター・アンド・コスビー(現タワーズペリン)のバイス・プレジデントだった。

スティーブ X. ドイル
Stephen X. Doyle
営業に関するコンサルティングを提供しているSXDの社長。HBRへの寄稿には、ベンソン・シャピロとの共著 "What Counts Most in Motivating Your Sales Force?" HBR, May-June, 1980.がある。

「フェニックス地区のマネジャーに電話をして、私が大切なお客様のために提案書を作成中だと話して、彼の担当地域についてはちょっと力を貸してほしいと頼んだんだ。しぶしぶながらもOKしてくれたんだが、それ以来、何の連絡もなければ、2度ほど電話をしたのに、返事もくれないんだよ」

 これに対して、フェニックスのマネジャーの言い分は「私には限られた時間と労力の範囲内で毎月達成しなければならない数値目標があるのです。他人の営業に手を貸したからといって私が認められるわけでもなければ、私の収入が増えるわけでもありません。ですから、そのようなことはしないようにしています」。

 次は、大手テレコミュニケーション会社の顧客担当バイス・プレジデントの発言である。

「当社は大手コングロマリットのゼンブラと年間300万ドルの取引を交わしていますが、この金額は将来の可能性を考えると、わずかなものでしかありません。ゼンブラの戦略部門はテレコミュニケーションで、彼らは過去10年間、膨大な投資を続けてきました。先週、同社のITシステムの責任者が私に、2つの地域の営業担当者について電話で苦情を訴えてきました。彼らはゼンブラの他部門に向けて値引きでサービスを売り込み、まんまと取引に成功したというのです。この苦情の主曰く『ゼンブラのネットワークを効率的に運用するには、全社的な戦略が必要であり、このように部分的に売り込みをされては混乱が生じる。安売りをされては、社内の摩擦の原因になる』。そしてこのようなスタンドプレーは、そっくりそのまま当社に跳ね返ってくるわけです」