営業は、つまるところ、人間相手の仕事であり、管理や統制、計画や測定を試みたところで無意味である――。心の底でこのように思っている営業担当者は少なくない。しかし、本当にそうなのだろうか。そこまで複雑なのだろうか。営業というシステムを要素還元し、各要素同士の因果を特定すれば、実は効率的かつ効果的にその業績を向上させられる。このようなシステム工学は営業にも十分適用できるのだ。本稿は、そのための具体的な方法論を紹介する。
システム工学を営業組織に援用する
セールス・マネジャーの意思決定は、ほとんど「科学性」に欠けるという批判がある。彼らは、利益よりも売上げを追求し、総合的な計画を立てることなく個別に決定を下し、体系的な意思決定プロセスよりも己の勘に頼るというのだ。
Porter Henry
執筆当時は、ポーター・ヘンリー・アンド・カンパニーの代表。
このような批判に、セールス・マネジャーたちは、自分たちが相手にしているのは機械ではなく人間であり、簡単に予測やコントロールできない、気まぐれな営業担当者や顧客なのだと反論することだろう。実際、このような反撃は珍しくない。
営業部門が、定量化が難しく、数々の不確定要素――これらはどのような相互作用を起こすのか、とうてい予測できない――に左右される複雑なコミュニケーション・システムであることは間違いない。
利益率の高い製品の売上げを増やすために、たとえばセールス・トレーニング・プログラムを実施しても、給与制度が売上げ増を奨励するものであれば、営業担当者は利益率が低くても売りやすい製品を販売して売上高を上げようとするだろう。そうなると、このプログラムは失敗に終わる可能性が高い。
あるいは、営業部門を拡大した結果、収益性の低い顧客への訪問数が増えたため、期待された収益性の向上は実現できず、その代わり売上原価率の上昇と訪問当たりの利益減につながる可能性がある。
このような複雑な職能を管理する場合、セールス・マネジャーは、効果的な科学的管理法を利用してみることも一考に値する。これは「システム工学」とか「システムズ・アナリシス」「トータル・システムズ・コンセプト」、あるいは「システムズ・アプローチ」などの用語で語られ、原子からエネルギーを生成したり、月に有人宇宙船を発射したりした際にも一役買ったもので、等しく営業部門の生産性向上に貢献しよう。
基本的にシステムとは、ある種のプロセスまたはオペレーションを遂行するために利用され、測定可能なアウトプットを生み出す多種多様なインプットからなっている。なお測定とは、目標とする成果を実現するために、インプットやプロセスを調整することがその目的である。システム・エンジニアは電子工学用語の「フィードバック」を借用して、この測定と調整の手順を説明している。