そして、亮作は依志男に迷惑を掛けたくないと考えており、東北に残した畑を売るので金銭面で面倒を掛けないと話しますが、病院には同じように認知症の人や、家族から見放された高齢者が入院しており、奇行や奇声が止まない雰囲気が嫌になります。

『花いちもんめ』ほど深刻な人権侵害はありませんが、映像で見る限り、専門的な医療やケアが提供されている雰囲気は全く見られず、ここでも(3)の「受け入れ先の老人病院が人権無視」という点が描写されていることに気づきます。

 結局、病院の雰囲気にショックを受けた律子が、タツの退院を決断したものの、やがて亮作も家の前の空き地にごみを集めるようになるなど、認知能力の低下が見られるようになり、律子の負担が一層、増えます。さらに、鷹男が亮作に早く死ぬように冷たい言葉を浴びせるなど、家族の人間関係が崩壊する中で、タツが不審死するというストーリーです。

 実は、映画の冒頭、タツの不審死を2人の刑事(若山富三郎、佐藤浩市)が捜査する場面から始まり、ラストに真犯人が明らかになります。ここで誰が真犯人か書くのはネタバレになるので、詳細はDVDでご覧いただくとして、以上の記述を通じて、『花いちもんめ』と共通した描写が見て取れることが、お分かりいただけると思います。

 このように、前述した3点こそ、介護保険が創設された背景なのです。それでは、この3点を順に見ていきましょう。

介護の「社会化」が制度設計に影響
しかし「自立」の意味が大きく変貌

 まず、「女性の介護負担」ですが、当時の介護労働は家族内、特に女性によって担われていました。1994年12月、厚生省(当時)の有識者研究会が取りまとめた報告書に以下の一説があります。

「介護を主婦労働に依存することは、主婦にとって大きな負担となっており,特に介護者自身が高齢化しつつある状況において、高齢女性にかかる負担は過重である。また職業を持っている女性が、介護のために離職を余儀なくされているような場合も見られるが、こうしたことは女性の職業上のキャリア蓄積の阻害要因となる。(中略)介護を女性に依存することは、女性就業の促進にブレーキをかける可能性もあり、今後労働力人口の減少が予想される中で、将来の労働市場に大きな制約要因となってくる恐れがある」