一方、僕には「レシピ」がある。じっくりケーキづくりの作業工程を振り返れば、「あ、砂糖の量が少なかったんだ」とか、「ここでかき混ぜ方が足りなかったのか」と、間違いに気づくことができるのだ。

 実際、日々の投球フォームの修正は、かなり複雑な作業で、(10)ができない原因が(5)にあり、その(5)ができない原因が(2)にあったりする場合もある。腕が下がっている本当の原因が、下半身の動作にあったりするケースもよくあることだ。プロのピッチャーやコーチでも、投球フォームが崩れている本当の原因をすぐに発見するのは難しいだろう。

 でも僕は、投球フォームの修正ポイントを「巻き戻し」ながら原因を探ることができる。段階的に戻れる場所があることは、「安定した結果」が求められるプロにとっては大きな武器になると思っている。

 僕はオフになると毎年のように少年野球教室を開催するが、そこで子どもたちに「もっと腕を上げたほうがいいよ」とか「少しひじが下がっているよ」という直接的なアドバイスはしないように心がけている。自分でも経験があるが、周囲から一度言われれば、子どもであっても、投げるときに自分の腕が下がり気味かどうかはだいたいわかるはずだ。でも、具体的にその「上げ方」がわからない。そこでつまずいているのだ。

 だから僕は、「ほら、ここに力が入りすぎているから腕を上げにくいんだよ」とか、「腕を遠くに出すように意識すれば、自然とひじは上がるよ」というように、「原因を含めた修正」のアドバイスを送るようにしている。

 何かミスを犯したり間違ったりしたとき、そのことだけを直そうとしても、なかなかうまくいかない場合が多い。せっかく直してもすぐに同じミスを繰り返してしまったり、直すことに意識を持っていかれすぎてしまうために、別の間違いを犯してしまったり……。間違いの原因を究明し、その箇所を修正してこそ、本当の意味で問題解決につながるのだと思う。

野球に対するこだわり、自然体とのバランス

 練習という範疇からは少し外れるが、シーズン中の日々の調整の面で、野球以外の普段の生活の要素も重要だ。僕は20代のころ、いわゆる四六時中野球のことだけに集中するタイプで、生活のすべてを野球に捧げるのが正しいという考え方を持っていた。つねに、勝つために必要なことは何か、ということを求めていたわけだ。

 試合に集中するため、登板の前日と当日は極力しゃべらない。睡眠が大切だという話を聞いて、オーダーメイドのマイ枕をつくったこともある。眠る直前にベッドの中で、その日を振り返る時間をつくるために、寝室も家族とは別にしていた。