多くの方は、映像などでフォームの違いをチェックして、たとえば腕の位置が少し下がっていたら、次からは腕を少し上げるように意識して投げれば、簡単に修正できると想像するのではないか。しかし、下がっている腕の位置を、上げた状態に……つまり普段の正しい動作に戻すのは、言うほど簡単なことではない。
何しろ、自分では普段どおりに投げていると思っていても、知らないうちに腕の位置が下がってしまっているのだ。無理やりに腕を上げようとして投げたら、逆に投球フォーム全体がもっと崩れてしまうことだってある。投球フォームというのは、それほど繊細なものでもあるのだ。
投球フォームを巻き戻してチェックする
では、僕がシーズン中にどうやって投球フォームの修正を行っているか、具体的に説明していこう。僕は、自分の投球フォームの中で、チェックすべき重要なポイントをいくつか設けている。仮にそのステップが「10個」あるとしよう。その投球フォームの中の重要ポイントは、ステップ(1)ができたらステップ(2)、ステップ(2)ができたらステップ(3)……と連動している。プロのピッチャーなら、つねにステップ(10)までできた状態でマウンドに上らなければならない。しかし、シーズン中には、それができていないときがあるわけだ。
そのとき僕は、「巻き戻し」をして、その原因を探る。ステップ(10)ができていないと気づいたら、その前の(9)はどうか? よし!問題ない! では(8)はどうだろう? (7)は? ……そうやって遡っていくと、「あっ! ステップ(5)ができてないじゃないか!」と発見できる。そして、「じゃあ、今日はその前のステップ(4)からもう一度、やってみよう」と修正していく。
この投球フォームの修正ポイントを僕は、パーソナルトレーナーの土橋恵秀とともに試行錯誤を繰り返しながらつくり上げてきた。大学時代に2人で、投球フォームを何もないゼロの状態からつくり直し、プロに入ってからも磨き続けてきた。その過程で多くの失敗を繰り返したからこそ、自分なりの修正ポイントを把握できわけだ。
たとえば世の中には、材料さえあれば感覚的な目分量だけで、おいしいケーキをつくれるセンスのある人もいるだろう。対して僕は、何もできない状態からレシピをしっかり覚えてケーキをつくれるようになったタイプだ。
ただ、いつもと同じようにケーキをつくったつもりでも、でき上がったときにいつもと味が違ってしまった場合のことを考えてみてほしい。このとき、目分量でケーキがつくれてしまう人は困ることにはならないだろうか。単純に言えば、「どこで間違えているのか」を発見する術がその人にはないからだ。
もちろん、飛び抜けたセンスがあれば、そこに新たな材料を加えたりしておいしくする工夫ができるのかもしれない。しかし、厳密に言えば、それはいつものおいしさとは違うだろう。つまり、安定感に欠けてしまうわけだ。