誰もがうらやむ華麗なる転身に
成功したはずの江口さんでしたが…

 時は2002年、大手IT企業に勤務していた江口さん(仮名)は世の中の「転職ブーム」に乗って“華麗なる”転身を図りました。転職先は当時上場したばかりのベンチャー企業。大幅年収アップ、新設セクションの立ち上げ、マネジメントへの期待など、入社5年目で迎えた初めての転職は大成功かに見えました(転職までのプロセスは、前回を参照)。

 ところが、転職後に次々と想定外の出来事が起こりました。まず、戸惑ったのが、人事部による簡単なオリエンテーションだけで、いきなり職場に入ることでした。即戦力で転職したという認識は持っていたものの、会社内の制度や手続きなどもう少し丁寧な説明があるものと思っていた江口さんにとっては面食らうばかり。人事部からの説明では「この会社は現場主義なので、何でも現場で実行してほしい」ということでした。結局、PCの設定から交通費の精算方法に至るまで全て現場の同僚に聞いて回ることになりました。

具体的なミッションを与えない職場で

 ところが、周囲の同僚たちは、まるで他人のようによそよそしく、およそ協力的な姿勢ではありません。人事部には「現場主義」と言われ何も教わらず、現場でも全く協力的ではない状況に江口さんは戸惑い以上に不安を感じました。それでも、自分よりも先に転職をしていった先輩から「郷に入れば郷に従え」「転職先では転職先の流儀に従うべし」と教わったことを思い出し、同僚の様子をびくびくと伺いながら、事務的なことなど少しずつ教わっていきました。

 最も困ったことは、自分がどんなミッションで働くのか、明確に示されないことでした。江口さんが配属されたのは新設のコンサルティング部門。直属の部長からの指示は「新規顧客の開拓営業をしてほしい」というだけで、どのような戦略で事業を推進するのか、どのような対象に営業するのかなど具体的な取り組みは示されません。周囲の同僚たちは多くが他部署からの異動組で、どうやら彼らは以前の職場での延長上で「コンサルティング的な」仕事を受注しているようでした。転職組の江口さんには既存の顧客があるわけではなく、完全な新規営業になる上、抽象的にコンサルティングを営業せよといわれてもどこから手をつけていいのか見当もつかない状況でした。