まず、世の中に流されないこと。

 周囲が転職を当たり前と思っているなら転職しないという信念があっていい――。

 これまで5回にわたって掲載してきた本稿ですが、いよいよ今回にて最終回となります。

 産業構造、組織運営形態、人口構成の変化など複合的な要素から到来した人材流動化時代。それを後押しする人材紹介事業は過去15年間にわたって大きく発展を遂げてきました。

 その業に携わってきた者として、人材流動化時代が作りだした矛盾を指摘することを目的としてきましたが、まったくもって十分とは言えそうにありません。少なくとも、転職にはらむリスクの高さ、そのリスクを少しでも回避する方法をお伝えしたいと考えてきましたが、それすら満足いくレベルではありません。

 既にお伝えしてきたように、リーマンショック以降、回復を見せてきた各企業の求人意欲は、昨年の震災による一時的な影響はあったものの、現在では安定着実なレベルに達しています。そうした中、まさに「転職ブーム」と呼ぶにふさわしい状態に近付きつつあると認識しています。

 おそらく、皆さんの周囲を見渡せば、転職経験者ばかりかもしれません。それだけ転職が当たり前になっている時代です。そこで、考えて頂きたいのは、まず自分自身をどのように際立たせていくかということ。転職が当たり前の時代だから自分も転職しようというような短絡的な考え方ではなく、むしろ、その逆に、これだけ転職することが当たり前の時代なら、転職しないことが価値になるかもしれないという発想です。

「逆張り」という言葉がありますが、転職が当たり前の時代だからこそ、私は転職をしないことが価値になると見ています。不確実な時代だからこそ、みんなと同じことをやってもリスクは軽減されず、むしろ増大するのではないでしょうか。こうした時代だからこそ、転職というオプションを完全に捨てて仕事に集中するべきかもしれません。

ないものねだりはしない
自分が過去にした意志決定を尊重する

 私見ですが、転職活動は100%現状への不満から出発します。まず、そうした不満の原因がいかなるものなのかを特定すべきでしょう。もしそれが、単なる「ないものねだり」なら転職に向かうことは大変に危険です。「もっと考える仕事がしたい」「戦略的な取り組みをやってみたい」そんな転職理由を星の数ほど見てきました。しかし、現在の仕事で考えることができていない人材が、転職する(仕事を変える)ことで考えられるようになるのでしょうか?