日本企業がグローバルな事業展開を進める上で、大きなネックとなっているコーポレート(本社)機能の問題。その在り方について、グローバル企業の経営に詳しいデロイト トーマツ コンサルティングの日置圭介氏が、3人のCFO(最高財務責任者)と語り合うシリーズ対談の第2回は、スリーエムジャパンの昆政彦氏にご登場を願った。

事業に横串を通すための
共通言語としてのファイナンス

グローバルの共通言語は英語よりファイナンスが重要昆 政彦
MASAHIKO KON
スリーエム ジャパン
代表取締役 副社長執行役員

GE横河メディカルシステム(現GEヘルスケア・ジャパン)CFO、ファーストリテイリング執行役員、GEキャピタルリーシング執行役員CFOなどを経て、2006年住友スリーエム(現スリーエム ジャパン)入社、財務担当執行役員などを経て現職。

日置:「次世代経営リーダー育成塾」(「ダイヤモンドクォータリー」誌主催)では、昆さんも日本企業の中堅幹部の人たちからさまざまな質問を受けていましたね。

昆:コーポレートとしてのあるべき方向性については、皆さんの認識がかなり一致していましたが、それをどう実現するかとなると、各社とも悩みは深いようですね。

 一例を挙げると、欧米系のグローバル企業は、各事業部門にコーポレートの横串が通っている。スリーエムの場合だと、CFO配下のビジネスカウンセルが、各事業部門に入っています。日系企業はそのような仕組みがなく、コーポレート部門が事業部門と情報を共有したり、事業部門を通じて顧客や市場の動きを捉えたりする機能が一般的に弱い。そのために、事業部門をどうサポートすればいいのか分からないという苦悩を感じました。

日置: 事業部門に横串を通すことが必要なのは日本企業の人たちも分かっているのですが、その前段階として、コーポレート部門がビジネスをサポートする機能よりも行政的な機能として見られがちであり、さらには横であるコーポレート内での横連携がうまくできておらず、ファイナンスやHR(人事)、リーガル(法務)などがばらばらに動いているために、コーポレートシステム全体としての機能が弱い。これでは、事業部門に対する十分なサポートができません。

昆:その問題を解決する鍵の一つは、共通言語としてのファイナンスの活用にあると思います。グローバル企業に必要な共通言語というと英語と考えがちですが、意思疎通のやり方を変えないで、言葉だけを変えても通じません。ファイナンス、もっと端的に言えば、数字は世界中どこでも同じ意味を持ちます。それを共通言語にすれば、コーポレートと事業部門のコミュニケーションは劇的に変わります。

 共通言語としてみんながファイナンスを使うようになれば、コーポレートが事業部門に入っていくのは、わりと楽です。グローバルの経営トップと事業部門のヘッド、あるいは日本の事業部門長とグローバルの事業部門長が共通言語としてファイナンスの指標を使いながら話をしていれば、コーポレートもスムーズに支援できる。ビジネスのどこに問題があり、どういうアクションを取ればいいのか、その結果として指標がどう改善するのかを一連のストーリーとして説明できるからです。

 事業部サイドからすると、コーポレートが議論に加わってくれた方が話は早いし、実行のスピードが上がります。

日置:HRやリーガル、システムの人も含めコーポレート全体がファイナンスを共通言語とすることで、事業部門への支援機能が高まり、ビジネスに貢献できるということですね。

昆:そうです。例えば、売り上げ、利益など事業部門の目標を基準として、新製品開発とか、マーケティング活動とか、生産部門の在庫とか、そういう数字が目標値とどう結び付いているのかを説明する。そして、現状の個々のビジネス活動が目標達成に向けたベクトルと合っているかどうか、合っていないとしたらどうすればいいのかを事業部門と一緒に議論します。それをコーポレートと各事業部門が日常的に行うことで、会社全体のベクトルが合っていき、コーポレートが全社的な動きをつかむこともできます。