日本企業がグローバルに戦線を広げるなかで、新たな課題が次々と浮き彫りになっている。その代表例が、グローバル企業をマネジメントするコーポレート(本社)機能のあり方であり、複雑な組織体をリードする経営人材の育成などである。こうした喫緊の課題について、グローバル企業の3人のCFOと、グローバル経営論の専門家である日置圭介氏が語り合った。第1回は、デュポンの橋本勝則氏だ。
コーポレートのグリップが利かない
そこに悩む企業が多い
日置:ダイヤモンドクォータリー誌主催の「次世代経営リーダー育成塾」で講師を務めていただきましたが、そこでの議論を通じて、橋本さんが受けた印象をまず聞かせてください。
KATSUNORI HASHIMOTO
デュポン 取締役副社長
YKK英国ではCFOとしてM&A、欧州持ち株会社設立などを担当。米国デュポンで合弁会社財務報告システムのグローバルプロジェクトリーダー、内部監査マネージャーなどを経て帰国後、東京トレジャリーセンターを設立し、グローバルトレジャリープロジェクトに参画。現在は、合弁会社、スタッフ部門、ダウケミカルとの合併・2社分割の担当役員。
橋本:日本企業のグローバル展開が加速している一方で、コーポレートスタッフが抱える悩みは想像以上に深いようですね。海外に進出しても事業部門の縦のラインが強くて、コーポレートのグリップがなかなか利かない。あるいは、海外企業を買収しても、マネジメントは現地の経営陣もしくは日本から派遣された人に任せっ放し。そんな状況に悩んでいる人が多い印象を受けました。
日置:橋本さんもよく指摘されていますが、この状況はかなり以前から変わっていませんね。グローバルに戦線が拡大するにつれ、例えば、抱えるリスクも増えるため、リスクマネジメントについてはコーポレートが何とかグリップしようとする企業が多くあるものの、仕組みやシステムが十分整備されていない中で、単に人を送り込むようなやり方には限界があります。
橋本:製造部門などは比較的早い段階から海外展開を進めてきたこともあって、日本の本社がきっちり管理できているようですが、マネジメントに関わる部分が追い付いていない感じですね。
日置:日本のマザー工場をコピーするなど、海外における生産拠点の展開はうまくやってきた印象で、工場内の生産管理のレベルは高いと思います。その後、震災などもありサプライチェーンにも進化が見られていますが、経営情報のネットワークを張り巡らせて情報を素早く収集・分析・伝達して、"体全体"をコントロールするための"神経系"はまだまだ弱いと思います。
橋本:日本企業はモノづくり技術の競争力が高いだけに、これまではそれにおんぶに抱っこで海外展開を進めてきた面があります。つまり、マネジメント機能が欧米企業に比べて弱くても、モノづくりの技術で勝負ができた。ただ、昨今では新興国から技術面で追い上げられ、製品サイクルはどんどん短くなっています。そういう環境変化の中で、あらためてマネジメントの力が問われているのだと思います。
かつては、進出先の国で製品を作って、その国で売るという一国完結型が多かったのですが、今はマーケットがボーダーレス化しています。別々の国で、設計、部品生産、組み立てを行い、それを世界中の市場で販売するのが当たり前になっています。それぞれの進出先で完結するのではなく、グローバルに全体最適を追求しなくてはなりません。そこは、マネジメント力の勝負です。