弥生の月に入ると、多くの企業で「決算対策」に追われるようになる。他社も羨むほどの増益を達成しそうな企業は、利益の一部を翌期に繰り延べられないかと、贅沢な悩みを抱える。半面、昨年暮れ(2011年12月)のクリスマス商戦で惨敗した企業は、年明けの3か月間で、利益を何とか捻り出せないものとか考える。
拙著『ほんとうにわかる管理会計&戦略会計』では、3期連続の赤字決算を回避しようとした企業が、年度末までの10日間で不人気商品の在庫を2倍に増やすことにより、営業赤字(▲11,000千円)から営業黒字(+5,000千円)へと転換する「決算対策」の手法を紹介した。
この会計処理は、粉飾決算ではない。「一般に公正妥当と認められる」(会社法431条、金融商品取引法193条、法人税法22条4項)手法に基づいているので、誰からも文句を言われる筋合いはない。巧妙に仕組まれたカラクリを理解しないほうが悪いのだ、という強弁を通すことができる。
その当不当は別にして、在庫を積み上げただけで(まったく販売しなくても)増益に転じるというカラクリは、企業が公表する財務諸表に“built-in”(内蔵)されている。したがって、前年のクリスマス商戦で惨敗し、在庫を積み上げてしまった企業の業績(11年12月期)は、実は増益になってもいいはずであった。これは皮肉でも何でもない。
ところが実際には、在庫を多く抱えて減益を余儀なくされた企業が多かった。すなわち、現在のニッポン企業の実態は、カラクリを活かすことができないほどに悪化しているということだ。
在庫増を足掛かりに
企業の市場支配力を検証する
在庫の積み上げは、企業収益を即座に圧迫するものではなく、ボディブローのように効いてくる。第75回コラム(ソニー編)の〔図表11〕で示したように、ソニーは、リーマン-ショック後の09年3月期決算で膨大な在庫を抱えてしまったことが尾を引いている。いろいろな言い訳があるかもしれないだろうが、これから迎える2012年3月期の予想最終利益が▲2200億円では、どのような言い訳も通らない。
なぜ、在庫は積み上がるのだろうか。08年9月のリーマン-ショックや11年3月の東日本大震災の影響で、消費者の財布のヒモが堅くなったせいかもしれない。それでも業績を伸ばしている企業が存在することから、消費者の財布のヒモの強弱を理由にするのはできれば避けたい。
目の前に「デフレ不況」という嵐が迫っているにもかかわらず、ここで販売中止にしては「いままで準備してきた苦労が報われない」という現場の声に押し切られて船を漕ぎ出し、見事に「在庫の山」に座礁する企業の何と多いことか。