心筋梗塞の自覚症状は「胸痛」ばかりではなく、男女差もある

 俳優の大杉漣さんの突然死で注目された急性心不全。

 報道によると、ドラマの収録後に共演者と食事に行き、ホテルの部屋に戻った時点で「腹痛」を訴えたという。その後、搬送先の救急病院で亡くなられた。

 直接的な原因は心不全──つまり心臓が働かなくなったことだが、なぜ急に心臓が働かなくなったのかは明らかではない。

 急性心不全の原因としては一般的に心筋梗塞が考えられる。典型的な自覚症状は「胸痛」だが、大杉さんのようにまず「腹痛」を訴える例は少なくない。あまり知られていないが心筋梗塞の自覚症状には男女差もある。

 先月、アメリカ心臓学会の機関誌に掲載された調査でも、女性の患者は典型的な症状のほか、のどの違和感や不快感、肩甲骨の間など背中の痛み、動悸の訴えが多いという結果が報告されている。

 同調査は、2008~12年に急性心筋梗塞で米国内の病院に入院した18~55歳の男女(男性976人、女性2009人、平均年齢は47歳)を対象に行われた。対象者は入院24時間以内に、自覚症状に関するアンケート調査に回答している。

 その結果、男女とも9割近くは胸痛や胸の圧迫感、首を絞められるような苦しさなど典型的な症状を自覚していた。

 その一方、女性はのどや首、背中(肩甲骨回り)の違和感や痛み、動悸や息切れ、消化不良に似た症状をより感じていたことが示された。ところが、入院前に「不快な症状」を訴え病院を受診した女性の半数が、「心臓とは関係ない」と診断されていたのである。自覚症状の幅広さを医者も認識していない、ということなのだろうか。

 ちなみに日本の循環器病に関する診療ガイドラインでは、心筋梗塞に関し「女性はむしろ顎やのどの痛み、腹痛、吐き気や嘔吐、食欲不振、背部痛、肩の痛み等の非典型的な症状を訴えることが多い」と明記されている。

 心筋梗塞はいつ襲ってくるかわからない。高血圧、高血糖、脂質異常+ストレスフルな生活を送っている方は、男女を問わず非典型的な症状にも気を配る必要がある。

(取材・構成/医学ライター・井手ゆきえ)