震災で泥まみれのサバ缶22万個を売り続けた経堂の人々の精神東日本大震災による大津波で壊滅した木の屋石巻水産の缶詰工場。工場跡地に埋まっていた缶詰は、震災前からつながりのある東京の経堂に運ばれた。その後、地元の人やボランティア等の協力できれいに洗って販売され、工場再建のきっかけとなったようだ(画像提供:須田泰成)

泥まみれのサバ缶の数は
何と22万缶!

震災で泥まみれのサバ缶22万個を売り続けた経堂の人々の精神『蘇るサバ缶――震災と希望と人情商店街』
須田泰成著、廣済堂出版、221ページ、1300円(税別)

 泥まみれのサバ缶を石巻から東京の経堂という街に運び、洗って売った、復興支援活動をご存じだろうか。メディアでもたくさん取り上げられたので、ご存じの方も多いだろう。でも、この活動が3月から年末までの長きに渡り、22万缶にのぼったことはあまり知られてない。エピソード自体が美しすぎて、そこに流された「膨大な汗」を私たちはつい見逃してしまう。

 本書『蘇るサバ缶――震災と希望と人情商店街』を手に取ったとき、私はまず、この途方もない時間と缶詰の数に驚いた。本書を開くと、その活動の過程が連綿と綴られており、その地道な様子が伝わってくる。「何が人々を突き動かし、継続させたのか」その理由が、本書を読めばわかる。このレビューは、そこに焦点を当ててまとめていきたい。

 経堂の人々の精神は、売名のためにやってきた勘違いした人々を見分ける。著者は、そういった人たちを「モンスターボランティア」として、本書の中で切り捨てている。それは、多様性を認めないということとは、ちょっと違う。後ほど詳しく述べるが、人々の街への愛着が活動への献身と継続性を生んだと私は考える。

 多くの企業はいま、CSV(Creating Shared Value=共通価値の創造)を標榜し、自社の利益だけでなく社会貢献につながる経営を目指している。しかし、その実践は困難だ。経堂の活動の中心にどんな思いがあり、それがどうやって共有され、組織化され、継続されたのか。学ぶべき点は多い。本書は、草の根から生まれた、新しいタイプのビジネス書といえる。

 JR東京駅の新幹線のお掃除スタッフの事例が、ハーバード大学経営大学院のMBA1年生の必修科目として採用されたのは記憶に新しい。今回の事例は、直接、企業経営に関するものではないが、地域や社会貢献といった今日的なテーマとリンクしている。ポイントは、真面目なものづくり、地域に愛される企業、そして新しいマネジメントだ。