本人が望んだ野球留学、否定しがちな外野の大人

 ただし、選手が自ら望んで野球留学を選択している例が多いことも忘れてはいけない。実際に関西から東北の高校に進学し、現在は大学野球でコーチを務めている野球留学経験者に当時の話を聞いたところ、以下のように話してくれた。

「その高校を選んだ理由はとにかく甲子園に出場するためでした。進学した高校には関西出身の選手が多かったので実際に出場した甲子園では観客から『関西第二代表!』と罵声を浴びたり、開会式では当時の高野連会長の野球留学に対して否定的な発言があって『自分たちのことを言われているのかな…』と感じたりすることもありました。でも、そのことで後悔するようなことはまったくありません。野球以外の運動部も強い高校だったので、勝てない時は学内の先生から『何しにここまで来たんだ!』というようなことも言われましたが、今の自分があるのも高校時代があるからだと思っています」

 ちなみに東京大学への進学実績が全国でも屈指の有名私立高校へ県外から進学した経験がある人物にも話を聞いたところ、学校全体で県内の中学出身の生徒は半分にも満たなかったという。しかしそのように大学進学を目的に越境入学することに対する批判の声はほとんど聞いたことがない。

 学生の本分は勉強であり野球を同等に考えることはおかしいという意見もあるが、ある特定の分野の才能を伸ばそうと思って自ら進路を選ぶことは何ら不思議なことではない。音楽や芸術の分野でも海外に留学する例はいくらでもある。

世界に門戸が開かれた時代に、スケールが小さい

 日本ではとにかく「文武両道」を礼讃する傾向が強いが、一つのことに対して真摯に取り組み、身を立てようとする学生を否定する権利は誰にもない。そもそも15歳で親元を離れ、縁もゆかりもない土地の高校へ進学するということは勇気のいることである。野球に打ち込みながら慣れない寮生活をする苦労は想像しただけでも大変なことだ。

 前出のコーチはそういった雑音を気にすることなく結果を残し、現在も指導者として野球に携わっているが、心ない中傷によって野球に嫌気がさしてしまった選手も少なからずいるのではないだろうか。「野球留学」という大層な名前はついているものの、世界的な規模で見れば小さな島国の、スケールの小さな話である。そんなことを問題視する前に、プロもアマチュアも野球界全体の裾野拡大に、本腰を入れて取り組むべきだろう。

 夏の選手権大会は今年で100回を迎える節目の年であるが、ボーダーレス化が著しい現代において、県内、県外という小さな枠にとらわれ続けているのは、いかにも時代遅れという感が否めない。もっと広い視野と高い視座から高校野球のあり方を考える人が増えることを切に願いたい。

(ベースボールライター 西尾典文)