西新宿に実在する理容店を舞台に、経営コンサルタントと理容師が「繁盛する理容室」を作り上げるまでの実話に基づいたビジネス小説。「小さな組織に必要なのは、お金やなくて考え方なんや!」の掛け声の下、スモールビジネスを成功させ、ビジネスパーソンが逆転する「10の理論戦略」「15のサービス戦略」が動き出す。<理容室「ザンギリ」二代目のオレは、理容業界全体の斜陽化もあって閑古鳥が鳴いている店をなんとか繁盛させたいものの、どうすればいいのかわからない。そこでオレは、客として現れた元経営コンサルタントの役仁立三にアドバイスを頼んだ。ところが、立三の指示は、業界の常識を覆す非常識なものばかりで……>すでに15回にわたって連載した『小さくても勝てます』の中身を、ご好評につき、6回分を追加連載として公開します。

無我夢中に急いだ結婚は
一生後悔することになる

オレは、プロポーズの話を一気にした。

立三さんは黙って聞いていた。

「ええ話やな」と立三さんは言った。

「内緒にしておいてくださいよ」

「それほど、理容室が好きなんやな」

プロポーズから1週間後の月曜日。

オレは四谷三丁目のドトールで立三さんとコーヒーを飲んでいた。

「オオシタ」の後輩スタッフのカット練習に付き合う前に腹ごしらえをしようと、席に座ると、「やっぱり、ジャーマンドックうまいやろ」と不意に横から立三さんが声をかけてきたのだ。

――何なんだろう、この人は。

立三さんはこの前と同じ、ジーンズと濃い茶色のフリースを着ていた。

立三さんは完全に気配を消していた。

カメレオンみたいだった。

いや、カメレオンなら景色に溶け込むために体の色を変える。

しかし、立三さんは、いつもと同じ服。

どう見ても〝着たきりスズメ”である。

不思議だった。

「最近、調子はどうや?」と剣術の達人のようにスーッと間合いを詰めてきた。

その圧力に押されて、オレはプロポーズの話をした。

いや、させられてしまった。

「よく考えてプロポーズしたか?」

「はい、よく考えました」

「それはよかったな。たしか、フランスの劇作家・モリエールが『人は無我夢中に急いで結婚するから、一生後悔することになる』て言うてたけど、君の場合はよく考えてるみたいやから、きっとうまくいくやろうと思う」

まだ、よく知らない人にも、そう言ってもらえると嬉しかった。

「ありがとうございます」

「婚約のお祝いに、仕事についての心構えの話をしたるわ。仕事についてはこの心構えで始まり、この心構えで終わる。仕事の全てや」