ウェブ・マーケティングは、その短い歴史のなかでもさまざまな変貌を遂げて来た。インターネット上のディスプレイ広告、リンクを盛り込んでサイトへのトラフィックを促進しようとする電子メール・マーケティングなどはもっとも初期の形態だろう。

 その後、eコマース・サイトが成熟するにつれて、他のサイトと連携するアフィリエイトといった方法や、サイトのビジターの購買履歴やクリック行動分析を元に「お勧め商品」を表示するしくみなどが盛り込まれていくようになった。アマゾンが先陣を切った手法だが、これは特定のユーザーだけでなく、ユーザー全体のデータベースを縦横に結びつけ、集合的に利用することによって可能になったものだ。

 現在主流になっているのは、検索マーケティングである。検索サイトやその他のサイト上でユーザーが入力したキーワードに基づいて、それに関連した広告が検索結果と共に表示される。あるいは、自社製品やサービスに関心を持ちそうなユーザーが訪れるサイトに広告を表示させるといった方法だ。検索マーケティングは、出稿側がコストや地域などの条件変数をオンラインでリアルタイムに指定、変更できるという使いやすい管理ツールによって、より大きな潮流となった。

 そうした一連の流れのなかで今、ウェブ・マーケティングの新しい戦場となっているのは、ソーシャル・ネットワーク・サービス(SNS)だろう。「フェイスブック」や「マイスペース」、そしてつぶやきブログの「トゥウィッター」を利用した、いわゆるソーシャル広告やソーシャル・マーケティングと呼ばれるものだ。今や、SNSは電子メールの利用を上回る人気を得ている上、「口コミ」というもっとも得難いコミュニケーション様式が成り立っているプラットフォームである。

 先だって広告代理店、メディア企業など150社が加入するインタラクティブ・アドバタイジング・ビューロー(IAB)は、ソーシャル広告のベスト・プラクティスの実例を選んでいる。

 フェイスブックのビーコン広告もそのひとつ。ビーコン広告は、フェイスブックのあるユーザーがパートナーになっている企業やサービスについて言及したりすると、同じグループの他メンバーに、関連する広告が流されるというものだ。たとえば、あるメンバーが映画について言及すれば、別のメンバーに「君も観る?」というアンケート付きでその映画の広告が表示され、イエスと答えれば、さらに別の友達に自分の写真入りで広告が表示される。あるいは、セレブのヘアスタイルを自分の顔写真と組み合わせられる化粧品会社の広告もある。

 こうしたソーシャル広告では、「売らんかな」の意図が前面に押し出されたものより、友達グループに話題を提供し、楽しませるような工夫が必要となる。また重要なのは、ユーザー・プロファイルやソーシャル・グラフなどをどこまで公開するかをユーザーが指定できる透明なしくみだ。それがなければ、プライバシー問題に抵触するだけでなく、SNSの仲間内で築かれている信頼関係というマーケッターにとっての宝物を損なうことになってしまうからだ。