野田政権が成立するまで、私は優先すべきは中長期的な成長軌道の確立であり、財源は国債でよいと考えていた。だが、ここに至っては、「予言の自己成就」可能性を考慮すると、増税するリスクより「しないリスク」の方が高いかも知れないと考えている。

なぜ私は消費増税容認に変わったか<br />増税するリスクとしないリスクの結末<br />――東京大学大学院人文社会系研究科教授 盛山和夫氏せいやま かずお/1948年、鳥取県生まれ。東京大学文学部社会学科卒業、東京大学大学院社会学研究科単位取得退学、博士(社会学)、現在、東京大学大学院人文社会系研究科教授。専門は社会学。主な著作に、『制度論の構図』(創文社)、『社会階層』(共著、東京大学出版会)、『社会調査法入門』(有斐閣)、『リベラリズムとは何か』(勁草書房)、『年金問題の正しい考え方』(中公新書)、『社会学とは何か』(ミネルヴァ書房)、『経済成長は不可能なのか』(中公新書)など。

 平成24年度予算案が衆議院を通過し、いよいよ国会の焦点は消費増税を巡る是非に移る。いま消費増税、是か非かと問われるならば、ことここに至っては、6月の通常国会終了時までに、何らかの消費増税引き上げの決定が国会でなされた方がいいのかも知れない。なぜなら、今や「何も決定できない日本の政治」という状況そのものが、大きな経済的リスクとなってしまったからである。

構造的税収ギャップ拡大の
主因は高齢化による歳出増

 安倍内閣時の2007年参院選以来、衆参逆転が常態化して、長期にわたる日本の閉塞状況を打破しうるような思い切った政策を、推進するための強力な政治的リーダーシップがほとんど不可能になってしまった。その上、政権党である民主党内は、2009年のマニフェストへの原理主義的忠誠派と現実的修正主義者とに分裂している。